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雫から始まる物語  作者: あまやすずのり
17/70

第17話

 日も大分傾きかけてきた校庭で

 黙々と駆ける二人の影。

 その表情は真剣そのもの。、

 だが、どこか楽しそうに見える光景は

 私、五十嵐 五月には新鮮に映っていた。

『安藤先輩の楽しそうな姿、久しぶりかも』

 マネージャーとして入部した頃は

 それこそ毎日見ていた光景。

 だが、安藤先輩が怪我をして絶望し、

 だけどまた希望を取り戻しリハビリを開始した後でも、

 雫先輩と一緒に頑張っている時でもみた記憶がない風景だった。

『でも、安藤先輩はやっぱあぁじゃないと、ね……』

 何となく可笑しくなり口元が緩む。

 ふと安藤先輩の前に視線が止まる。

 後方から機を計ったように影が飛び出す。

 遠藤先輩が溜めた脚を伸ばし、安藤先輩の前を走る。

 一瞬離れた二人の間をしかしそれ以上離されまいと

 安藤先輩もしっかりと付いていく。

 必死な形相で駆け抜ける姿は惹かれるものがあり

 目の前を走り去る際に抜ける風はどこか心地よい。

 二人が争う事で起きた光景はとても素敵で、

 とても魅力的で、とても寂しい気持ちになった。

 二人が友人だから。

『……紗英の事、どうしよう……』

 未だに解決しない友人の事をまた思い出す。

 相変わらず紗英はよそよそしく、

 桜は適当で私だけ大いに悩んでいる、そんな日々が続いている。

 雫先輩にもそれとなく相談してみたが、

 やはりというか当然というかいい答えはもらえず、

 悩みは解消されていない。

 きっとあの日のお店での手伝いに原因があるのだろう、

 それを思い出そうとして気づく、

『遠藤先輩、紗英と仲いいかな……』

 週一の取り置き客という話は聞いていた。

 常連さんということは

 紗英ともそれなりに話をしている仲、であろう。

 それにあの日、あの人が帰ってから

 一瞬ギクシャクしたから。

『……でも、どうやって……』

 我ながら名案と思いつつも、

 遠藤先輩にどう相談するのか、

 どう話をする算段へと持っていくか、

 それが脳の全てを支配したことで

 タイムを計り忘れる大惨事になってしまった。


「ふぅ……堪えたな」

 夕暮れ時、沈み始めた日を眺めながら

 進は一人腰を下ろし一息ついていた。

「今日は……楽しかったなー……」

 自然と漏れた言葉、顔は全く緩むことなく

 むしろ呆けた顔でゆっくりと視線を上げていく。

 小さな雲が夕焼け空にぽつりと流れる静かな世界で一人かみ締める。

 ただ一緒に走っただけなのにとても体が高揚し

 いつも以上にペースが上がり、でもそれ以上に体が応え

 限界すら超えた感じだった。

 だからなのだろう、今はいつもより体が重たく感じ

 それ以上に充実感に満たされていた。

「……結構、かかるのか、な」

 雄一と五月が向かった方向へ視線を持って行く。

 そこには当然のように校舎があり、その中に消えた二人。

 本日の活動終了を代理顧問へ報告しに行っている。

 普通ならお役ご免となったところで先に帰る予定だったが、

「あーちょっと待っててくれないか?」

 校舎を後にしようとした進を呼び止めるように雄一から声がかかった。

 飯の誘いかな、今日の走りを食事しながら振り返るのも悪くない、

 そう感じた進はここは素直に待つことにした。

 ただひたすらに待つ、待っている、のだが、

「……腹……減ったな……」

 いい加減空腹感が限界を迎えていた。

 予想以上に動いた影響だろう、

 体がエネルギーを求めて悲鳴を上げている。

 今はなんとか腹に力を込め、

 胃の虫が鳴らないように我慢出来ているが、

「いい加減限界だぞぉ……」

 一人呟きながらグッタリと頭をもたげため息をつく。

 ふと、視線に入るデジタル時計を見て

 別れてから既に20分以上経っている事に気づく。

 さすがに遅すぎだろ、と雄一を恨み始めた瞬間だった、

 そんな進の上から意外な言葉が降り注ぐ

「あれ?遠藤先輩まだいたんですか?」

「へっ?」

 可愛らしい女性の声に顔を上げる。

 橙色に染まる背景に映し出された彼女の顔が

 とてもきれいで、とても美しく、そしてあの日の悲しみが重なる。

 今でも鮮明に出てくる彼女の顔、

 我ながらなんと記憶力が良いことかと呆れるくらいだ。

 そんな記憶の彼女とは違い、

 目の前の、五十嵐 五月は疑問を浮かべた顔で

 進の様子を見ていた。

「安藤先輩と一緒に帰ったんじゃなかったんですか?」

「あー、いやその雄一が戻ってこなくて……」

 更に言葉を続けようとした進、

 だが目の前で予想だにしない行動を起こした彼女を見て声を飲み込む。

 五月は何やら考え事をし始めたからだ。

 細めの顎に手を当て小さく一人呟いている。

 その表情は真剣で声をかけるのも憚れる。

 なので、今出来る事を思い出し携帯へと手を伸ばす。

 取り出した液晶を操作しようとして、

 ガシッとロックされる二の腕。

 以前にも感じた柔らかい感触、は無く

 しっかりと力を込めて圧迫される。

 そこにはか細い手があった。

 逃げないように、逃さないように、

 捕らえた獲物を死んでも離さない。

 そんな意思が籠ったその手の先へ

 進が恐る恐る視線をあげる。

 すると進が全てを確認する前に

 優しげな声音で降ってきた。

 未だ彼女の顔は確認出来ない。

 なのにきっと表情とは裏腹だと分かる

 非常に優しい音色で進は誘われた。

「遠藤先輩?ちょっと付き合ってくれます、よね?」

この連載も初めて4ヶ月くらいになります。

当初は1週間に1回の更新は厳しいかなーと思っていましたが

なんとか続いております。

それも見に来てくださる方がいるからであり、

本当に感謝しております。

内容もここから結構進展する(つもり)なので

最後までお付き合い頂けると幸いです。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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