第01話
このお話は私の短編小説『また、走る』、
『五月ちゃんの恋物語』から続くお話となります。
連載のみでも楽しめる内容にしている、つもりです。
もし興味ある方は短編もぜひよろしくお願いします。
ゆっくりと沈み始めた太陽が夕刻を告げる。
帰宅し始める人達の波をゆっくりとかき分けながら
俺、遠藤 進は目的地へと向かっていた。
『久々に飯でも一緒しないか?』
唐突に送られたメールに俺は驚愕したが
誘いを断る理由は無かった。
風の噂で聞いた話が本当なら、もう一度あいつと
競えるかもしれない。
それを確かめるためにもおれは二つ返事で了承した。
そして、
カラーン、
ドアに取り付けられたベルの音と共に店員が
せわしなく近づいてくる。
お決まりのセリフを聞きつつ店内を見渡すと
一人頬杖を突きながら外を眺める男性に視線が向かう。
退屈そうな表情は相変わらずだな、そう思いつつ
店員へと一言
それを合図に店員は呼び出しの応対へと次の仕事を移し
俺はゆっくりと待ち合わせ相手へと近づく。
俺の気配に気づいたのか男の視線が絡む。
それと同時に実に久しぶりであの頃と変わらない
少し癪に障る笑顔が表れ、
自然と俺はそれに答えるように声をかけていた。
「久しぶりだな、安藤 雄一」
既にフリードリンクを頼んでいた雄一と共に
メニューを決め一通り頼み終えた後、
話は俺から切り出した
「お前から誘われた時にはびっくりしたよ」
中学時代、同じ長距離を走る選手として
切磋琢磨した雄一
その後高校は別の進学となったが互いに走る事を
やめることは無く、大会では顔を合わせるライバルとなった。
だが、その後に起きた雄一の怪我。
俺も当然見舞いに行ったが、走る際に見せていた輝くような
顔は無く、絶望にまみれた姿で何も話してはくれなかった。
偶々来ていた雄一の顧問に走れなくなった事を聞き、
その後、俺から一切の連絡をする事はなくなった。
「見舞いは、1回だけだったな、すまないな」
何度か足を運んで励まそうとも思った。
だが、自由に走れる俺が行けば雄一が落ち込む原因になるかもしれない。
おそらく逆の立場なら、一緒に走った仲間だからこそ
そう感じた。
「いや、気にしないでくれ、俺もあの頃はちょっと参ってたからな」
自嘲気味に、だが俺を気遣うように言われ
少し救われながらも、俺は呼び出された理由を聞いてみる。
「それで、結局走れそう、なんだろ?」
今の雄一の姿なればこそ、確信めいた物言いの俺に
不適な笑みを浮かべながら雄一は
「少なくともお前よりは速く走れそうだよ」
言ってくれる、ブランクもなんのそのって事かと少しかんに障る物言い。
だが、素直に俺は祝福することが出来た。
自然と差し出した俺の右手を掴み握手を交わすと
「復帰戦、待ってるぜ」
「あぁ、楽しみにしててくれ」
その後運ばれてきた食事を俺達は黙々と消化し、
互いの近況を伝え合っていた。
雄一のリハビリ、学校での部活動、長距離での活躍。
時間にすれば物の数十分の話でも
その内容は濃く、厚く、二人が離れてた時間を十分に埋める内容だった。
そして、ふと俺は最近の自分の悩みを解消するため
遠回しながら雄一へ相談してみることにした。
「ところで、高田さんとはまだ付き合ってるのか?」
「はっ?」
何の事だと言わんばかりの顔で見返された俺は逆に困惑しながら
「いや、だってお前中学から高田さんとずっと一緒だったじゃ…」
俺の言葉に小さく呻きながら理解したような顔で
しかし、出た言葉は否定的なものだった。
「あー、別に付き合ってた訳じゃないし、ただの幼なじみだし」
「あっ……そうだったの……」
バツが悪そうな雄一の態度に俺が逆に恐縮する。
中学時代、何かと二人が一緒にいる光景をよく見ていた。
部員の中でも二人は付き合ってるらしいとの話もあったので
それを鵜呑みにしていた。
「す、すまないなっ!変な事を聞いて」
「いや、でもまぁ変な事じゃないさ」
どこか安心するような笑顔で雄一は続ける。
「実はさ、俺雫の事好きなのかどうか分からなくてさ」
それは唐突に始まった雄一の話。
暫く前に部活の後輩との話で高田さんについて話した内容。
「俺が思ってる雫の事、後輩にはちゃんと伝えたつもりだったんだが」
微妙な笑顔で頬をなでながらそこでのやり取りを思い出すように
俺に話してくれた。
「なんか、釈然としなくてさ、もやがまだ残ってるような」
なんでだろうな、そんな顔で俺に向き直り答えを求められる。
きっとそれは雄一自身が気づいていない、高田さんへの想いなんだと
俺は感じた。
俺からそれをアドバイスしても良かったかもしれない。
だが、それではきっと雄一のためにはならない、そんな気がした。
だから俺は
「それは雄一が悩んで答え出すべき問題なんだよきっと」
「……そっか……」
沈黙と共に辺りの喧噪のボリュームが上がる。
なんとなく重くなった気がする空気は、だけど心地よさすらも感じ、
しかし、俺はすぐに冗談めかして話をはぐらかす事にした。
「あー俺も女の子とデートしてーなー」
少々声高に想いを述べながら天上へと視線を向けると
自然と脳裏にあの日の光景が浮かんだ。
更新日程としては1~2週で1話ずつの予定となります。
1話ずつの内容も5分程度で読めるようにしたい、と思っております。
初の連載物となりますので、今後がちょっと心配ですが
お付き合いいただけるとありがたいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。