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半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
二章 半妖狐少女と仮面少年の一戦目語り
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【1】

 二章 半妖狐少女と仮面少年の一戦目語り



 翌日、私は恐る恐る学校へと来て、〝最悪な事態〟になっていないことに心から安堵していた。昨日の夜はその〝最悪な事態〟になっていないかひやひやして、全然眠れなかった。今も、その余韻で、心臓がばくばくと言っているほどだった。生きた心地がしないとはこのことだね。

 一時限目が終わった休み時間。教室内はがやがやと盛り上がっている。でも、そんな賑やかな気分に乗れない私は、机の上に顔を突っ伏していた。前の子の席に桐戸美月ことみーちゃんが無遠慮に座っている。流れるようなつややかな黒髪を背中に流して、冷ややかな雰囲気はいつものこと。


「で?」


 みーちゃんがスマホをいじりながら、こっちも見ずに声をかけてきた。


「何? みーちゃん」

「それはこっちのセリフ。アンタがそこまで落ち込む……へこんでる? のって、珍しいじゃない」

「え、心配してくれてるの?」

「気持ちが悪いだけよ」

「今日も絶好調だね、みーちゃん」


 私は机の上で再び突っ伏す。みーちゃんの鋭い眼差しが一度だけ、私を見た。でも、

すぐにスマホに落とされてしまう。


「それで、何があったの? 聞くだけなら聞いてあげるわよ」


 それはみーちゃんの優しさだ。口では冷たいことを言おうとも、ちゃんと私のことを心配してくれているらしい。たぶんね。


「私ね……」

「うん」

「……」


 何を言えばいいのでしょうか? とりあえず私の〝正体〟を伏せておくとして、どこから説明をするべき?


「時系列で、お願いね」


 わぁ、さすが私の親友。私の心などお見通しのようですね。でも、時系列か……。……、……。


「私、好きな人ができたようなの」


 がしゃん。みーちゃんの手からスマホが落ちた。みーちゃんのあの鋭い目が大きく見開いている。


「……お、驚いたわ」

「私も、みーちゃんの驚きようにびっくりしたよ」


 そこまで驚くことかな?

 あれ? 考えてみたら私の〝正体〟は話せないからそこだけ省いて時系列に沿って話をしてみたけど、私が「好きな人ができました」ということをみーちゃんに打ち明けてしまったような形になる。恥ずかしいじゃない。でも、みーちゃんだから、別にいいか。

 みーちゃんが落ちたスマホを拾って、私の机に置く。どうやら私の話を聞くつもりまんまんみたいだ。


「で、好きな人ができたわけなのね? それはおめでとう」

「ありがとうございます!」

「アンタのことだから、きっとかわいい系の男子ね」

「よくわかるね!」

「アンタが好きになる人って、だいたいそんな感じじゃない」


 さすが、みーちゃんです。私のことなんてお見通しだね!


「それがどうしてそんなに落ち込む結果になるの?」


 ずばり、痛いところをついてくるみーちゃん。こんなところでも容赦がないようですね。


「えーと」


 その好きな人に、私の〝秘密〟を知られてしまいました。それが怖くて、どうしようもありません。なんて、もちろん、その理由は言えるはずがない。みーちゃんにさえ私の〝正体〟は秘密だっていうのに、そんな簡単に口にできるはずがなかった。それこそ、「好きな人ができました」以上の、深刻な告白だというのに。


「もしかして、相手はすでに彼女がいたとか?」

「え?」

「え?」


 互いに沈黙。あの男の子に、彼女? どうなんだろう? 確かにあの男の子は、クラスの人気者みたいだったし。みんなの中心にいるような感じだった。そんな子は確かに魅力的で、彼女がいたとしてもおかしくない。


「え、私、失恋確定……?」

「本当に彼女がいたの? だったら、奪い取りなさいよ」


 みーちゃん、いきなりすごい発言したね。しかも、そんなにさらり、と。


「い、いや……彼女がいるとかはまだわからない」

「……は? じゃあ、何でそんな風にへこんでいるのよ?」

「……なんていうか、最悪な出会い方をしてしまいまして」

「最悪な出会い方って、アンタ、何したの?」


 みーちゃんの中では、私が何かをやらかしたと持っているらしい。その表情が「やっちゃたのね」と、あきれ半分の驚き半分だった。失礼な。でも、まぁ、したんだけれどもね。


「……とても説明できません」


 だって、本当に説明できないもん。


「アンタ、そんなすごいことを……!」


 みーちゃんが口元を手で覆って、すごい打ちひしがれているような雰囲気を出す。みーちゃんの中で、私は本当に何をやらかした設定になっているのかな?

 うー……、みーちゃんもなかなかにひどいね。知ってたけどね。

 私は再び机に突っ伏す。そんな私にみーちゃんは小さく溜め息をついた。


「……アンタが何をしたかわからないけど。いつものアンタらしくないじゃない。琴音はいつも思ったら即行動でしょうに。何をそうへこんでいるのかはしらないけど、動き出さなきゃ、何も解決しないわよ?」


 みーちゃんの言葉に、私は顔を上げる。みーちゃんの綺麗な黒い髪が揺れた。鋭い眼差しが、少しだけ優しく細められている。


「みーちゃん……!」

「アンタがしおらしいの、気持ち悪いんだから。さっさと立ち直りなさい」


 ですよね。さすがみーちゃん。でも、いつも通りのみーちゃんだから、元気が出たかも。そうだよね。こんなところでぐずぐずしている場合じゃない。


「気になるなら、会いに行けばいいじゃない!」


 あの子にはもう私の正体が知られている。今、彼が私の正体について吹聴していないのは、奇跡そのもので。それなら、これからもずっと黙っていてほしいと頼むしかない。心からお願いすれば、彼だってきっと口を噤んでくれるはず。

 私はまだみーちゃんと、みんなと一緒にいたいから。

 私は席を立ちあがった。


「明日山ー。何を言っているかわからんが、教室を飛び出したら怒るからなー」


 いつの間にか二時限目が始まっていたらしく、先生の声が飛んできた。みーちゃんは自分の席に戻ってるし。


「はーい」


 怒られたくない私は、とりあえず着席した。



 お昼休み。昼食で閑散としている廊下を走っていた。この時間帯はみんな食堂や外で昼食を摂る。特にクラスがある校舎はとても静かだった。

 お昼をかきこむように食べた私はみーちゃんに「がんばってくる!」と言い残して、教室を出て一目散に北校舎に来ていた。

 北校舎は一年生専用の校舎。二年生になるとコース別で東と西校舎に移る仕組みになっている。北校舎に来れば確実に彼はいるはずだ。

 すでに食堂や外には彼がいないことを確認済み。それに匂いがこの校舎の一階から漂っていた。

 目指すクラスは1―A。そこに彼がいるはず。廊下を突き進むにつれて、1―Aから不穏な空気が漂っていることに気付いた。それに騒がしい。何だろう?

 1―Aへと着いた私は恐る恐る、教室内を覗き込んだ。あ、いた。彼だ。彼の姿を見つけるだけで心臓が跳ねる。何だか恥ずかしいね。でも、彼は教室の後方で困った顔で立ち尽くしていた。それに彼の周りにも生徒たちがいて、その生徒たちも困惑――かすかに恐怖や不安が滲んだ顔をしている。

 何? と、私が教室の前方を見ると、見るからに体育会系の男子生徒たちが睨みあっていた。


「よくもやりやがったな!」

「お前こそ!」


 明らかに喧嘩だ。しかも、体育会系の大柄な二人が取っ組み合っているからなかなかの迫力。確かに止めようとしても止められないかもしれない。みんな困っているし。よし、私が何とかしよう!


「やめなさい!」


 どん、と私は教室の出入り口で仁王立ち。突然の乱入者に、喧嘩していた男子生徒二人と、後方で二人を遠巻きに見ていた生徒たちが何事かと目を丸くする。もちろん、その中に、あの男の子もいるわけで、私を見るや、ぎょ、とした顔つきになった。そんな顔も、どこかあどけなくて可愛かったり。そんなこと、言っている場合じゃないけどね!


「二人して何でケンカしてるの?」


 私が問い詰めれば、男子生徒二人は顔を見合わせ、私に近づいてきて、


「「こいつが悪い!」」


 それからまくしたてるように私に二人同時に喋りだす。声が大きいのと、必死に伝えようとする焦燥から言葉が支離滅裂で、正直何を言っているのかわからない。


「もー、落ち着いて!」


 私が叫んでも、さらに二人は詰め寄ってきた。あまりの迫力と、自分勝手さに、さすがの私も苛立ちが募ってきた。言葉でダメなら体で思い知るべき。私は拳を握る。喧嘩両成敗って言葉、知ってるよね?


「二人とも、うるさい!」


 瞬間、目の前が青い閃光で弾けた。


「きゃあ!?」

「な、なんだ!?」


 あ、しまった。間違えた。拳でわからせるつもりだったのに。明らかにしくじりました。

 教室内はパニック状態。正体不明の青白い閃光が弾けたせいで、みんなが軽い恐慌状態に陥ったようだった。

 逃げ出す生徒。悲鳴を上げる生徒。呆然とする生徒。反応は様々だ。


「ちょ、みんな落ち着いて……!」


 原因は私にあるんだけどね。みんなを必死になってなだめようとする私の腕を誰か掴む。あの男の子だった。

 男の子は険しい顔で私を見ている。そんな顔も凛々しい……いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないね。こんな状況だから、睨まれるのも仕方がないよね。

 みんな混乱しきっている状況の中で、私と男の子はじっと見つめていた。男の子は困り顔たったけれど、私の腕を逃がさないと言わんばかりにがっしりと掴んでいた。


「ごめんなさい。一緒に来てもらえますか?」


彼は掴んだ私の腕を引っ張ると、一目散に教室から出ていった。もちろん、引きずられるように私も出ていく。喧騒にあふれた教室を置き去りにして。


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