表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
一章 少女と少年の出会い語り
6/37

【5】

 夕暮れ時の〝千本桜〟は、その夕暮れ時の朱色と、外灯のほのかな明かりでライトアップされて、お昼とは違う綺麗な表情を見せていた。普段なら、「綺麗だなぁ」なんて、まったりと見つめるのだけれど、今はそれどころじゃない。

 目の前には信じられない光景が映っていた。

 明らかに不良な感じの生徒――見た感じ先輩かな? ――が、絡んでいたのはあろうことか、あの可愛い男の子だった。男の子は先輩たちを前に、毅然としている。かっこいい。でも、このままじゃいけない。助けないと!

 私は猛然と走って、


「すとーっぷっっ!!」


 男の子と不良の先輩方の間に割り込んだ。


「「え?」」


 男の子と、先輩たちの驚いた声が見事に重なる。私は男の子を背にして、先輩たちに向き直った。


「弱い者いじめはだめだよ!」


 びし、と指をさす。先輩たちは呆気にとられた顔をしていて、今の事態をうまく呑み込めていないようだった。


「……お前、誰だ?」


 至極もっともな意見でしょう。私だって名乗る名前くらいあるのです。


「私は――……」

「あ、こいつ! 明日山琴音だ!!」


 出鼻をくじかれました。というか、何でこの人、私のこと知ってるの!?


「誰だそれ?」

「知らないのか? そいつ――……」


 先輩たちはひそひそと内緒話を始める。この場面を午前中にも見たよ。まったく、何なのかな?

 私はつかつかと先輩たちに近づいて、


 だん!!


 桜の幹を力強く蹴った。その衝撃で一気に桜吹雪が舞う。良い子は決して真似してはいけません。自然は大切にしましょう。

 その派手な衝撃音に、先輩たちが「ひ」と悲鳴を上げた。何故、悲鳴を上げるのかな?


「ま、いいや」


 私はそう頷いて、肩をぐるぐる回す。


「悪は、成敗ってね☆」

「待て、待て待て! 俺たちは別に――!」

「問答無用」


 私は拳を振り上げて、先輩たちに躍りかかった。私はこう見えても、自分でもいうのもなんだけど、相当腕が立つ方。そこら辺の不良相手なら楽勝に勝てますよ。

 逃げ惑う先輩たちを追いかけまわして、ひっ捕まえて、まぁそれからは自主規制。そのあと、ボロボロの先輩たちは一目散に逃げていった。


「あの……」


 悪を成敗して達成感に満ち溢れている私にかかる声。誰だろう? と振り返って。しまった。でも、もう遅い。

 男の子が、戸惑い気味に私を見つめていた。

 どき、と心臓がまた跳ね上がって、そのまま早馬のように駆けだしていく。どうして、こんなに心臓が鳴るのかは知らない。それに、何だか体温が上昇して熱いし。それに、顔に熱が集中してほんのりと熱かった。私は火照りを隠したくて視線をそらしたいのだけれど、でも、どうしても男の子が気になってしまう。私は平然を装って、男の子を見た。

 少しだけ長めの茶色の髪に、少しだけ吊り上がったぱっちりとした目。童顔で、幼さが残る面影のせいか年齢よりも幼く見える。うーん。可愛いね。やっぱり。

 ――ていうか、私が自主規制したことを思いきり見られてた?


「えーと……」


 なんて言おうか、言い訳を探る。女子の中でも腕っぷしが立つ私は、何気にそれがコンプレックスだったり。だって、強い女の子って可愛くないしね。


「だ、大丈夫だったかな?」


 あんなにも高鳴っていた心臓が、今は違う意味でバクバクしてる。だって、男の子の前であんなことしちゃったし、もし引かれでもしたらショックだし。

 男の子は大きい目で、ぱちり、と私を見返した。

 あ、と、気づく。彼の顔色、やっぱり悪いかも。体調が悪いなら保健室へ行かないと――ん? 違う?

 私は彼に近づく。一歩、また一歩。じぃ、と見つめた。


「あ、あの……?」


 男の子が、少し躊躇いながら口を開く。え、と思えば、見てびっくり。目の前に彼の顔があるじゃないですか。どうやら、私はとある一点を見つめすぎて、彼に急接近していることに気付かなかったらしい。


「ご、ごめんねっっ!!」


 私は慌てて飛び退った。それが間違いだった。踵が桜の木の根に引っかかって、バランスが後方へ。視界がピンク色の桜の空を映して、あぁ、次は地面に背中から倒れるんだろうな、って他人事のように思って。でも、その痛みは全然来なくて。


「大丈夫ですか?」


 ひ、と喉から悲鳴が出そうになる。あろうことか私は抱きしめられる形で、彼に助けられていた。密着感が半端なく、制服越しの男の子の腕の感触とか、温かさとか。先ほどではないけれど、でも、視界いっぱいに彼の顔が映って。


「だ、だだだ、大丈夫です――っっ!!」


 どん、と彼を突き飛ばしてしまった。そして、その反動は私にももちろんあるわけで。私は突き飛ばした反動で、後方に体が押しやられて、あろうことか木の幹にごん、と後頭部を強く打ち付けてしまった。


「いたたたた……!」


 ぐらん、と意識が揺らいで、体もふらつく。おぼつかない足が再び、再び桜の木の根元に突っかかり、私は前のめりに派手に転んでしまった。


「いった――っ!!」


 うぅ、顔面から突っ込んでしまいました。あまりの痛さに、顔も上げられない。


「だ、大丈夫ですか、本当に!?」


 男の子が慌てて私を引き起こしてくれた。可愛い顔をしているのに、やっぱり男の子だね。力が強い。あぁ、もう、ほら心臓がドキドキしてきた。顔も熱くなってきたし、思考も変に空回る。

 ――ん?

 と、私は心の中で首を傾げる。この男の子を見ていると、胸がドキドキするし、顔も熱くなる。何だか、平常心でいられない。近づいただけでも、何だか、浮ついてしまう。ん? んん? これには覚えがある。そうだ、あの時だ。

 人に恋した時と同じ。

 そう、あの時と同じだ。

 ということは、もしかして?

 え、そんなまさかの――一目惚れ?

 ……まじですか?

 いや、確かに笑顔の彼がとても魅力的であるけれど、ずっと、見ていたいと思うけれど、あれ、そう思っている時点でもう確信的だよ? 

 だって、彼、私の好みのタイプそのままだしね!

 もしかしたら自分の想いに気付いてしまったかもしれない私は、私を支え起こしてくれる男の子を、ちらり、と盗み見る。傍にいるだけで、もうすでに全身が熱い。心臓の音だって、耳元で聞こえるくらいにドキドキ言ってる。あー、もう、熱い。

私は男の子を盗み見ると、なぜか、男の子は目を見開いていた。呆然と、唖然と、口をぽかんと開けて。信じられない、といわんばかりに。え、何? その表情?


「それ……?」

「え?」


 それ? それって、何? 男の子は、私の何を見て驚いているんだろう? 男の子は私の顔――というよりは、頭を見ているようだった。え、頭? 頭……? まさか。

 ば、と私は頭に手を当てる。そこにはふさふさとした、ある感触があった。


「……」

「……」


 桜を照らす外灯が一瞬だけ、明滅する。いっそのこと照明が切れて、影を落としてくれてよかったのに。

 私はそのぴょこん、と飛び出た三角形の形をしたそれを、隠すように両手で覆う。私は男の子に、小首を傾げて。


「……見ちゃった?」


 男の子は、私の質問にこくん、と頷いた。うん、可愛いね、その仕草。――って、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!

 ま、いいか。

 なんて、楽観的に済ますことできない事態に、私は焦っていた。不安も、もしかしたら恐怖すら感じていたかもしれない。


「え、えへ☆」


 ごまかすように笑って。それに騙されてくれればいいのに。でも、男の子の視線は、変わらず私の頭に注がれている。

 桜にとまっていたカラスさんが「やっちゃったね」と一声鳴いて、空へと飛んでいった。

 それもそのはず。

 私の頭には、狐のような耳がちょこん、と出現していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ