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半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
一章 少女と少年の出会い語り
5/37

【4】

 今日一日、どうしてか頭痛がおさまらなかった。

 オレにまとわりついてくる生徒たちを何とかかわして、北校舎の裏にある桜のところへと避難している。もうすでに夕暮れ時。校舎の影になっているこの場所は薄暗くて、外灯がなければ不気味な雰囲気に包まれていかもしれなかった。本来なら、そういう場所には極力近づかないのだけれど、今は、別。本当に一人になりたかったのに――どうして、面倒事がいつも起こるのだろう?

 あきれてふと空を見れば桜の木にカラスが止まっていた。そんなオレを笑うように、「かぁ」と鳴く。カラスを見つめている間にも、オレ以外の来訪者たちの声が続いた。


「俺たち今、いろいろと困ってるんだよねぇ」


 大柄な体に、長い茶髪に、ピアスにネックレスに指輪、着崩した制服に、お馴染みの言葉。不良っていうのは、何ていうか、どの地域にも生息しているんだな、と思った。そして、その標的にされるのはいつも見た目が弱そうな奴ら。そいつが実は有段者だったんです、とかだったら、本当に笑えるのに。

 でも生憎、哀れな標的となった弱そうな男子生徒は、見た目通りのやつだったらしい。見るかに怯えていた。

 あー……。無視しよっか。オレ、頭痛いし。面倒事には関わりたくないし。


「おら、返事は!?」


 先輩らしき大柄の男子生徒が、弱そうな男子生徒を容赦なく殴った。頭じゃなくて、見えない部分――腹とかにすればいいのに。

 殴られた男子生徒はもう口がきけないようだった。それを見て、オレは長い溜息をつく。これを何とかしなきゃ、静かになれないじゃん。


「はい、そこでストップです」


 オレはわざわざ楽しそうな口調で、先輩と男子生徒に割り込んだ。先輩方はぎろり、とこちらを睨み付ける。先輩方の凄みに、オレはあえて笑みを浮かべた。


「あ? 何だ、お前?」

「先輩方こそ。何やってるんです?」

「あぁ、俺たち? 見ればわかるだろ? 仲良く遊んでんだよ!」


 な、と、先輩が殴った生徒にこれ見よがしに肩に腕を回す。まぁ、そう来ますよね。


「先輩、これ」


 オレはスマホを取り出す。それに先輩たちは「は?」と怪訝そうにした。


「さっきの、動画撮ってたんで」

「は!?」

「これを先生たちに見せると、どうなるんでしょうね?」


 先輩方の顔が歪む。どうやらようやく事態を呑み込んだようだった。でも、遅い。こんなところで恐喝するほうが悪い。オレに見つかったのは、運が悪いとしか言いようがないけどね。


「てめぇ……!」

「おっと、オレに乱暴すると、この動画送信しちゃいますよ?」

「なっ」

「ちなみに送り先は、担任の宮ちゃん。これを見たら、宮ちゃん先生、どうするでしょうね?」


 宮ちゃん先生とは女性の教師で、女子空手部の顧問を務めている。彼女自身も有段者であり、その実力は底知れない、と言われている。規律を重んじて、正義のために生きて、もし、悪事を働こうとする生徒たちがいたらみっちりと生活指導を行う――と言われていた。


「……っ」


 先輩たちは悔しそうに顔を歪めた。この人たちも宮ちゃんにお世話になったことがあるのかもしれない。まぁ、どうなろうと、自分たちが圧倒的に不利な状況に陥っていることに――負けていることに、気づいたようだった。


「くそっ」


 先輩たちは悪態をつくと、そこから逃げようとする。そう簡単には、逃がさないけどね。


「待ってくださいよ、先輩。どこ行くんです?」

「どこ行こうと俺たちの勝手だろ?」

「もし、そこから一歩でも動けば、送信しますよ?」


 あからさまな脅しに、先輩たちが動きを止めた。睨み付けてくる。おぉ、怖いね。でも、オレ、今、機嫌悪いからな。頭痛いときに、面倒事を起こしたお前らが悪い。


「てめぇ、何、企んでやがる?」

「ん? 別に?」


 まぁ、いろいろと考えてます。だって、この学校生活を平和に過ごしたいからね。使えるものは、使わないと。


「あ、そこの君。逃げて。危ないから。あと、これは他言無用だよ? もし、君がこのことを誰かに言いふらしたら、どんな目に遭うか――わからないからね?」


 突然のことに置いてけぼりになっている男子生徒に、オレはにっこりと安心させるように笑いかけた。理由は彼の安全とかそういうのじゃなくて、ただ、邪魔だから。

 男子生徒はもう何も言葉が出ないようでこくこくと頷くと、脱兎のごとく逃げだす。

 よしよし、これで良い。

 あとは――。


「先輩方、一つだけお願いが」

「何だ?」

「オレの奴隷になってください」

「「「は?」」」


 先輩方が何とも呆けた声と、間抜け面をさらした。


「な、何言ってんだ、てめぇ?」

「だから、奴隷です。平穏無事な学校生活を送るのに、手駒が必要なんですよ」


 先輩たちだってそのことはよくわかっているはず。操れる人間が多ければ多いほど、動かす側の人間にとっては楽ができるから。いらなくなったら捨てればいいんだし。


「てめぇ、調子に乗るなよ?」


 一人の先輩がキレたのか、睨みを利かせて詰め寄ってきた。


「送信したけりゃ、送信しろ。送信すれば、俺たちはお前を好き放題にできるんだぜ?」


 ま、そうだよな。自分の保身を捨てれば、何だってできる。ちなみにこれも承知済み。


「ふーん? オレに勝てると思ってるんですか? 先輩?」


 あえて落ち着いて、平然とした態度で、オレは言う。先輩の目に、微かに困惑が浮かんだ。


「言っておくけど、オレ、強いですよ?」


 にっこりと無邪気に笑えば、ほら、先輩たちの困惑が得体のしれないものを前にした怪訝さになって思考を止めた。先輩たちは顔を見合わせて「どうする?」と視線で会話をしている。あと一押し、か。

 とどめの一撃をさすために、オレは先輩たちへと近づいて――……。


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