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半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
一章 少女と少年の出会い語り
4/37

【3】

 オレはひたすらに笑顔だった。周囲には新しく友人になったクラスメイトたちがいる。

 北校舎1―A。そこがオレ、皆島綾人のクラスだ。

 クラスはまぁ、広い。壁は白くて、どこか清潔感のある雰囲気だ。それにエアコンがあるから冷暖房完備。席も一番後ろだ。これなら快適に勉強ができる。

 教室の環境はいい。気に入ったと言えば、気に入った。

 でも、今のオレは気分が最悪だった。

 頭が痛い。体の調子はいたって普通。食欲だってある。風邪ではないようだけれど、こんなふうに体調を崩すのは初めてだった。それをみんなに悟らせないように、オレはクラスメイトとくだらない話で盛り上がる。

 男子も女子も何が面白いのか、腹を抱えて笑っていた。

 うるさい。煩わしい。苛立ち。そんな感情が湧き上がって、いろいろと疲れてきた。――あぁ、もう、一人になりたい。

 オレは席から立ち上がった。


「あれ、綾人?」


 名前も知らない(聞いたけど忘れた)女子が、不思議そうにオレを見る。


「ちょっと用事」


 オレはそうとだけ言うと、呼び止められないうちに教室の外へと向かった。一人になれる場所を探そう。まだ次の授業まで時間はある。


「あぁ、皆島」


 廊下へと出たオレを引き留めたのは、男の教師。何かを言っているが(聞く気がない)、オレは適当な相槌を打つ。頼むからオレにかまわないでくれ。そう言いたいのだけれど。


「せんせーも、面白いこと言わないでよ!」


 表面上は、困ったように笑って見せた。

逃げたい。それがオレの今の気持ちだった。よく知りもしない教師と笑って話しながら、一方で焦燥感が募っていく。早くしないと人がくる。頭が痛いというのに、これ以上掴まったらマジで死ぬかもしれなかった。


「あれが綾人くん?」

「おーい、あやとぉー!」


 ほら、人が集まってきた。


「ねぇ、綾人くんってさー」

「なぁ、綾人、この間の――」


 顔見知りから、面識のない奴までなぜか囲まれてしまう。お前らなんか知らないからどっかに行け。そう思うのに、顔は笑みを作っておしゃべりに乗じていた。

 あー、何で、こんなことに?

 ま、理由はわかってるけど。自業自得といえば、自業自得。でも、これはさすがにきつい。頭が痛いから、なおさらだ。でも、そんなことは絶対に表面上には出さない。笑顔を浮かべて、切り抜けろ。

 そう自分に言い聞かせて、会話を続けようとした時だった。


「おい、西校舎のほうで何か騒ぎがあったみたいだ!」


 突然の声に、みんなの意識がそちらへと向く。ありがたい。


「え? 何が起こったの?」

「わからない。ただ、ガラスが割れて」

「ガラスが!?」

「え、何、何!?」


 騒ぎが、どんどん大きなものへと変わっていった。生徒たちの意識は完全にそちらへと行ってしまったようだった。

 ――今のうちに逃げよう。

 何とか解放されたオレは、騒ぎに紛れてそ、と逃げ出した。どこかに、静かな場所がないかな。静かで、誰も来ない場所。

 そういえば、と思い出す。この北校舎の裏には、桜の木が多くあった。そこは生徒の立ち入りが禁止になっている。そうか。あそこに行けば、一人になれるかもしれない。よし、あそこを隠れ場所にしよう。そう決めた。




 騒ぎを起こした私は、反省文を三十枚書くことで事なきを得た。私が放り投げた優等生くんは、ガラスに突っ込んだのに切り傷一つなく、ただ投げ飛ばされたことによる打ち身だけですんだ。

 先生たちからどうしてこうなったんだ、と怒られたが、優等生くんは完全黙秘。その代わりに私が見たままの光景と、出来事を話して優等生くんの悪事が発覚した。私と優等生くんはその後、別室でお説教を食らい、私は反省文で済んだけれど、優等生くんはどうなったんだろう?

 たっぷりとお説教を食らった一日はもうやる気が起きず、気怠いままに授業を受けていた。みーちゃんからは「ほら見ろ」と言わんばかりの冷たい目で見られるし、クラスメイトからは「またか」と呆れ半分の視線にさらされました。

 いいことするって、難しいね。


「そりゃ、アンタが加減しないからでしょ」


 またもや冷たい一言で私をあしらうみーちゃん。だって悪い人に何で加減しなきゃいけないの。と思いかけて、過剰防衛っていう言葉があるのを思い出した。なるほど、これが該当するわけですね。

 そんなこんなな今日の一日を終えた放課後。

 真っ赤な夕日が教室内に差し込んでいる。真っ黒い影が伸びて、赤と黒の世界が出来上がっていた。四月だけれど、夕方に差し掛かると少しだけ寒い。

 私はべったりと机にくっつけていた頬を離した。見ればみーちゃんはどこにもいない。置いて行かれたようです。二年生になってもクールビューティはぶれないね。さすがみーちゃん。

 私は体を起こして、ぐっと体を伸ばす。気持ちがへこんでいたせいか、体もどことなく、ただ重かった。


「帰ろっかな」


 この教室には誰もいない。私の独り言だけが、空気に溶け込んだ。私は席を立って、カバンを持って、教室から出ようとした時だった。


『ねね、あそこ、またキョーカツしてるよ!』


 幼い男の子の声が、無邪気に教室に響き渡る。ふゆくんだ。


「キョーカツ?」

『ほら!』


 ふゆくんに誘われるままに、私は教室内に戻ってベランダから身を乗り出す。私のクラスは二階にある。ベランダから見える風景は、正面玄関から正面ロータリー、渡り廊下と、北校舎から裏庭へと繋がる道が見えた。


「ん?」


 北校舎の裏庭には、桜の木がたくさん植えられている。桜が満開の時は、一面がピンク色に染まって綺麗って有名だ。千本もないけれど、いっぱい桜があるから〝千本桜〟って呼ばれている。でも、以前に桜の季節の時に、誰かが花見をして桜の木にいたずらをしたとかで、今は生徒の立ち入りは禁止になっている。もったいないね。

 だからみんなは眺めるだけで終わるのだけれど、今、私が目にしている彼らは明らかに違う目的のように見える。

 北校舎から裏の桜に続く道に、小柄な男子生徒一人と、対照的に大柄の男子生徒約四名がぞろぞろと歩いていた。花見なのかな? と思ったけれど、ふゆくんが「キョーカツだよ」というから、おそらく不穏なことを口にしていたのかもしれない。

 もし、そうであるなら、あのかわいそうな男子生徒を助けないと!

 私は教室から飛び出す。ふゆくんの『がんばれ!』という言葉を聞きながら、猛然と廊下へと駆けた。


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