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五章 妖狐少女と仮面少年の決戦語り
俺は復讐者だ。
あいつを殺すために今を生きている。
そう自覚できるほどに、俺はあいつを憎んでいた。
皆島綾人。
昔のあいつは本当に女みたいなやつだった。背も小柄で、あどけない顔立ちに、ぱっちりとした釣り目。あいつが俺たちに近づいてきたとき、気の強そうな女の子だと思った。でも、違った。あいつは女どころか男ですらなく、人間の皮をかぶった悪魔だった。
皆島綾人は金を巻き上げて、川に俺を突き落とした。ただ、それだけならよかった。当時付き合っていた彼女が綾人に売られて、ひどい傷を負った。体ではなく、心に。俺は彼女を前にひたすら謝ることしかできなかった。守ってやれなかったことを、ただ悔いた。でも、彼女は笑って「大丈夫だよ」と笑った。だから、心の傷を俺は見逃していたんだ。
けれど、彼女は自殺をした――しようとした。未遂で終わったのだけれど、でも、その後も、何度も何度も彼女は自殺を繰り返した。聞けば毎夜うなされ、人に対して不信感と恐怖心を抱いてしまったという。俺たちは別れも告げぬまま、終わりが訪れた。
それから怒り狂った俺は町へと繰り出して、皆島綾人を探した。ようやく見つけて、怒りをぶつけて、そいつは何て言ったと思う?
「ゴミがどうなろうが、オレには関係ない」
怒りで頭が真っ赤になった俺はそいつを本気で殺そうとした。でも、気づいた時、俺は血だらけで道に倒れていて。そいつの姿はなかった。
――絶対に、殺してやる。
そう決意した。犯罪? そんなの、どうだっていい。あそこまで人を踏みにじる奴が生きていていいわけがない。だから、殺しはたとえ罪だろうけれど、それで心が救われる奴だって多くいるだろう。
けれど、その決意を抱いた時には、その街で皆島綾人の姿を見ることはなかった。
そうして、数年の時が経って、俺はようやく殺すべき相手を見つけた。そいつは高校生となって、女の子と一緒にいた。
その光景を見たとき、真っ赤だった怒りはどす黒いものになった。
何で俺の彼女があんなにも人生を狂わされたというのに、あいつは学生を謳歌しているのだろうか? おかしいだろ!?
殺したい。
でも、殺すだけじゃだめだ。
あいつの大切なものを殺してから、あいつを殺す。
そのために、何度も何度もあいつを観察した。すると、一人の女の子がどうやらあいつに好意があるらしく、まとわりついていた。小柄で、ふんわりとした巻き毛の、どこか薄い色をした女の子。女の子はにこにこと笑いながらそいつの傍にいた。まるで仔犬のようだった。
あぁ、もしかしたらそいつがお前の大切なもの? と、俺はずっと、観察し続けていた。
そんな時だった。
『あれ、これはやばいなぁ』
男の子の声が聞こえた。幼くて、でも、しっかりした男の子の声。それが耳元で聞こえたとたん、どす黒い怒りは淀んだ黒へとなった。一言で言えば、混沌、かもしれない。
殺す。その感情で俺の思考全てが塗りつぶされた。
『あー、ごめんね?』
男の子が謝る。
そんなことはない。あんたが謝る必要はない。
――俺は、あいつを殺したいだけなのだから。




