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半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
一章 少女と少年の出会い語り
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【1】

 一章 少女と少年の出会い語り



 それは桜が咲いているとある一日。日差しも温かくて、風も穏やかで、本当に平和だなー、って感じられる一日だった。

 その日はこの玖高の新入生がやってくる日で、私たち二年生と、先輩の三年生は少なからずわくわくしていた。どんな子がくるんだろう、とか、「先輩」なんて呼ばれて恥ずかしいかも、とか言いあって、期待が膨らんでいた。

 もちろん、私もその一人。

 私は西校舎の二階の窓から、身を乗り出して外を見ている。見えるのは新入生たちだ。先生に連れられて、校舎を見て回っている最中。


「見て見て! みーちゃん、可愛い子たちがいっぱいだよ!」

「そうだね。いい加減にしないと、窓から落っこちるよ」


 声が弾む私とは対照的に、クールな私の友達、桐戸美月ことみーちゃん。みーちゃんはとてもクールだ。長くて綺麗な黒髪ストレート。すらっとしている体つき。細い輪郭に、整った顔立ち。やや釣り目で、冷静沈着な眼差し。纏う雰囲気も、また鋭い静けさがある。クールな女こと、みーちゃん。私の一番のお友達。

 みーちゃんの席は、このクラスである2―Bの窓際の一番後ろの席。とても羨ましい位置なんだけど、今、それは関係ないよね。私はそのみーちゃんの席の窓に、文字通り身を乗り出している。みーちゃんはそんな私を見て、小さく溜め息をついていた。


「アンタ、何が楽しいの? あんな新入生なんか見て」

「楽しいよ? だって、新しいものがあるって、何だかわくわくしない?」


 振り返ればみーちゃんは私を見ていない。みーちゃんの視線は、みーちゃんの手にあるスマホに注がれていた。む。少し、嫉妬。


「みーちゃんは、わくわくしない? 新しいものが日常生活に入ってくるの」

「別に」

「即答すぎない?」

「そう思わないから、仕方ないじゃない」

「うーん。それでこそ、みーちゃんだね」


 ぶれずに鋭さがあるのはみーちゃんらしいよね。


「ね。みーちゃん」

「何? 面倒事はよしてよ」

「面倒事じゃないよ! 私ね、新入生を間近で見てきたいなー、って思ってるんだ」

「あ、そう」

「返事が冷たいよ、みーちゃん!」

「あたしを巻き込まないでよ」

「相変わらず冷たいね、みーちゃん!」

「ていうか、アンタ日直でしょ? さっき先生が呼び出してたから早く行った方がいいわよ」

「あ、そうだった!」


 さすがみーちゃん。すっかり忘れていました。


「じゃあ、ついでに新入生を間近で見てくる!」

「は?」


 みーちゃんが、「いきなり何を言っているの?」という感じで私を見る。


「大丈夫、大丈夫! 少しくらい覗きに行っても平気だって!」

「アンタね……」

「じゃあ行ってくる!」


 みーちゃんの言葉も聞かずに私は走り出した。だって、気になるんだもん。


「もうすぐ授業始まるわよ」


 という、みーちゃんの呟きなんて聞こえるはずもなくて、私は教室を飛び出した。



 南校舎は、職員室とか事務室、応接室などが設けられている校舎。生徒は普段はあまり来ないのだけれど、日直だったりすると日誌を取りに来たり、先生に手伝いのために呼び出されたりすることがある。

 今日は私が日直だから、これで二回ここに来ていた。一回目は朝の日誌を取りに。今は、先生の何かの言いつけを聞きに。ついでに、新入生を見に。

 職員室は二階にある。私は職員室に入る前に窓からちらり、と下を見た。

 中央校舎の一階。そこには初々しい可愛い新入生たちの姿がある。一時限目と二時限目は続けて校舎案内とかそういうものなのかもしれなかった。

 中央校舎は多目的室が多い校舎。一階に食堂、購買、保健室。二階には図書室。三階は多目的室が三室もある。

 その一階で新入生は食堂で休憩をとっていた。


「いいなぁ、可愛いなぁ」


 新しい生活に慣れない新入生たちが、きょろきょろと周囲を見渡しては、笑いあっている。どこか緊張の抜けない姿が可愛く思えた。私にもあんな時期があったのかなぁ、なんて過去を思い出す。うん、たぶん、私もあんな感じだった。気がする。

 ふと、一階の食堂から数人の新入生が出てきた。

 一人の男の子を中心に、男子と女子がくっついている感じ。きっと、その中心にいる男の子は、クラスの人気者かリーダー的な子なんだと思う。

 私はその中心にいる男の子を見た。遠目からだけれど、――うん、なかなか、可愛い子だと思う。

 少しだけ長めの茶髪。釣り目だけど、ぱっちりとしている目元。すこし童顔で、笑っているとよけいに幼く見えて可愛い。どこか子供っぽい男の子は、周りにいる友達と笑いあっていた。その笑顔を見たとたん、どき、と心臓が跳ね上がった、気がした。


「可愛い……」


 うん、とても可愛い男の子だった。その子を見ていると、どきどきと、心臓が不自然に高鳴る。


「いいなぁ」


 私はじ、と彼を見つめる。その男の子は私に気付くはずもなく、友達と楽しそうに話し合っていた。


「お近づきになりたい!」


 じゃなくて、友達になりたい!

 私は、じぃ、と彼を見て――ある違和感で首を傾げる。


「何だか……顔色、悪くない?」


 そう。あの可愛い新入生の男の子は、少しだけ顔色が悪そうだった。笑っているけど、何だか、影あるような……?


「大丈夫かな……?」


 うーん。気になります。


「よし、見に行ってみよう!」


 もし、あの子の体調が悪いなら、何か力になれるかもしれない。助けられるかもしれなかった。それに、お友達にだってなれるかもしれない。

 気づいた時には、私の体は動き出していた。窓から離れて、廊下を走る。


「あ、明日山! お前、おれに呼び出されたんだろうが……っ!」


 後ろから偶然、職員室から出てきた先生が私の背中に声をかけた。私は走りながら、くる、と回転。


「ごめんなさい! あと少しだけ待っててください!」

「は!? 何言ってるんだ! 早くこっちにこい!」

「ごめんなさーい!」

「こらぁっ!! 明日山ぁぁぁ!!」


 わぁ。先生が怒ってる。戻ったほうがいいかな? でも、大丈夫だよね? ま、いっか。

 だって私の気持ちは今、あの男の子に会いたいという思いでいっぱいだから。


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