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半妖狐少女と仮面少年の恋語り  作者: ましろ
プロローグ ???と少年の昔語り
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【0】


 これは私と彼の恋物語です。

 つまらないかもしれません。

 どうでもいいと思われるかもしれません。

 ですが、どうかお時間があるときでいいので、どうぞお付き合いください。


 さぁ、私と彼ーー皆島綾人くんとの恋の幕開けです。




 プロローグ ???と少年の昔語り



 

 ――十年前。


 暗夜が広がるその下の山中。空の透き通った夜闇よりも、さらに濃密で、凝った闇が山の中に漂っていた。風によって揺れる草木の音。しん、と静まり返った無音の気配。真っ暗な視界に映る、より真っ黒な闇の影。冷たい土の匂いと、青い草の匂い。

 それらに包まれながら、少年は膝を抱えてじっとしていた。

 季節は夏から秋へと変わろうとしている。山中のひんやりとした冷気が、少年の手足から温もりを徐々に奪っていった。


 少年は一切、身じろぎしない。抱えた膝に顎を隠すように埋めて、じっと前を見つめていた。

 少年の前には何もない。あるのは、山中の暗闇に包まれた木々と茂みと、少年が腰を下ろしている湿った土だけ。


 暗闇に包まれた山中に、少年が一人うずくまっている光景は、とても異常だった。

 少年の周囲には人の気配がない。あるとすれば、闇夜の影に潜む、人ならざる者の気配だ。それは少年にとって気のせいかもしれない。いや、本物かもしれなかった。


 だからこそ、少年はじっとしている。


 その小さな体で、胸中で暴れ狂う恐怖を必死になって押し殺していた。ここに助けなどくるわけがないと知っている。だからこそ、なおさら、恐怖と不安と、ともすれば泣きわめきたい衝動を押し殺していた。


 そして、少年は幼いながらに身をもって、味わっている。

 その絶望を。

 その失望を。

 誰も信じない。

 信じられるのは、自分だけ。

 そう、幼い心で痛感していた。


 ――自分一人で生きてやる。


 そう決意した時だった。背後で何者かが土を踏みしめる音がして、少年は振り返り――……。



 * * *



 まさかの事態とはこのことだよね。


 なーんて、非常事態を前に、私――明日山(あすやま)琴音(ことね)はのんきにもそんなことを考えていました。ただ、非常事態なのか、それとも、ラッキーなことなのか。どちらかと言えば、どちらとも言えるし。どっちかと言えばラッキーなんですよ。

 だって。


 私は今、好きな男の子に抱きしめられているんです!


 もう心臓がばくばく鳴ってるし、顔も体も湯気が出そうなほど熱い。もうその男の子の腕の中にいることで、もう思考がパニックを起こしている。非常事態だよね? でも、とてもラッキーだよね、やっぱり。

 周囲の人たちはきゃーきゃー言っているし。ここだけ、何だか騒がしい感じ。


「何、笑ってるんだよ」


 わお。耳元で、とても凄みのある低い声で囁かれた。ぞくぞくする、と言いたいけれど、一気に、私の中の警報が危険だと鳴り響く。うん。やっぱり非常事態だね。


 ここは()(だい)高等学校。通称、()(こう)。私と彼が通っている高校。その北校舎の一階にある、一年生の教室の、さらにその前の廊下で、私は彼に抱きしめられているのです。

 ――と、(はた)から見れば、そうかもしれないよね。


 でも、実際は違うのです。


 だって、私は今、彼に守られている。あれ? この言い方もまた、何だか胸キュン的な? 違う違う。守られているには、守られているのだけれど。本当は――……。


「いい加減に、それをしまえ!」

「は、はいぃっ!」


 本当は、周囲から私を隠しているだけなんだよね。

 ムードも何もあったもんじゃない。


 彼――皆島綾人(みなしまあやと)くんに怒られちゃったから、そろそろ、これもしまわないとだよね。でも、何で、こんなことになっちゃったんだろ?


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