夜中のお散歩の話
たまに夜中に散歩する。
僕が住んでいるのは地方の田舎の住宅街で。10分も歩くと周りが田んぼばかりになったり、森や山があったり、真っ暗な道がよくある。昔は怖くてそんな道を歩けなかったけれど、慣れか成長か今ではよく歩く。恐らく深夜帯に廃墟や大きい神社の散策も出来るほど夜歩きに慣れたのでは、とも思う。ごめん嘘。
昨日もいつも通りお散歩しよう、と家を出た。歩き方はその日その日によって変わる。調子が良さそうであればランニング気味に走っていたり。知らない景色を見てみたい、ときょろきょろしながら見知らぬ道に入り込んで歩いていたり。
昨日は体調がなかなかによかったから走ることにした。ただただ気のおもむくままに右に行ったり左に行ったり、坂ダッシュしてみたり。
15分くらいすると疲れてきた。そんな短時間しか走れない自分の体力の無さにションボリーヌしながら家に帰ることに。
だがその前に近くのコンビニに寄って飲み物を買った。運動後は喉が乾く。昔は自転車で少し遠出することがよくあった。だから荷物を増やさないために飲み物はその場で飲み捨てる癖がある。その時もそうだった。その場で飲み干してすぐに捨てた。
ゴミも無く手ぶらで家路につく。ふと空を見上げる。天気が良い。田舎ということもあり星がよく見える。目が悪いから実際あんまりよく見えてないんだけれど。まぁ、それは、まぁ。うん、置いておこう。
コンビニを出て右へ。道路沿いの歩道に出た。右手には道路があるがそれと歩道の間に植物が植えられている。それは僕のお腹ぐらいまでの高さがあるため足元が真っ暗になりなにがあるのかさっぱり見えなくなる。そして左側は森で時おり枝がはみ出して来ていたりする。なんか夜には通りにくいとこだ。しかも夜ということもあり交通量は少ない。
歩いていると左側の木からくるのか蜘蛛の巣がやたらと引っ掛かる。それを鬱陶しく思いながら、ふと、前のほうになにかが落ちているのに気が付いた。なんだろう。
大きさはサッカーボールや猫ぐらい。真っ暗な中うっすらと輪郭だけが見える。なにやら丸っぽい形のもの。動いていないし、光る目も無い。おそらく忘れ物かゴミの類いだろう。
特に興味もないからそのまま横を通りすぎた。前そういうよく見えないものつついて中から大量の虫がうぞうぞ出てきたことがある。あの感触は今でも忘れられない。触らぬ神に祟りなし、と知っている。
「おい、あんた、た」
いきなり後ろから声が聞こえた。おっさんの声だった。
歩道の真ん中を歩いていた自分は落ちていたものに気を取られて後ろから来ていた自転車に気がつかなかったようだ。どいてくれ、と話しかけて来たのだろう。
あぁ、すみません、と言いつつ道の端に寄る。そして振り向いた。誰もいなかった。
そして思う。今の声はどこから聞こえた?
後ろ。後ろから声をかけられた。後ろのどこだ?
…………さっきナニかが落ちていたらへん。下のほうから。
パッと、慌てて下を見る。
なにも落ちていない。
そんな、そんなはずはない。今しがたそこに落ちていたもの。今、つい今俺が通りすぎたもの。風が吹いたわけでもない。ましてやどこかに転がっていくはずもない。今までそこにあったのだから。
……ふと、思う。大きさがサッカーボールや猫ほどの大きさで丸っぽいもの、そう、まるで人間の頭部のような。
考えた瞬間ゾッとした。ただの偶然だ、見間違えだ。そう信じるしかない。そうでもないと
「おい、あんた、たす」
思わず条件反射で振り向いた。また後ろの、しかも下から聞こえてきた。なにも無い。
頭が真っ白に染まった。
これはヤバい。そう思
なにかが後ろから右足のかかとあたりに触れた。
そしてそこからズルズルとなにかを引き摺るような、まるで這うような音が聞こえた。そして。……ペチャ。なにかしっとりと濡れたものがふくらはぎに当たった。
「おい、あん、おおたす、あんあああああた、たすたあい」
そのふくらはぎに当たったものはこんなことを言った。
発音の度に吐息のような声の響きのようなものが服越しにふくらはぎに触れていく。
僕は恐怖で凍りついてその信じられないものを見ることも出来ず、動くことも出来ずにただ、ただ立ち尽くすしか無かった。
「お、んあた、ああああい、たす、たす、殺せ」
……ズルズル…ズルズル……
ふくらはぎから離れた。そしてそれは、音の動きから察するに、僕の正面に来ようとしてるようだ。
もし正面から見たら自分はどうなるのだろうか。そりゃ自分だってまだ死にたくはない。だが、これはおそらくダメなやつだ。死を覚悟した。
と。いきなり視界が真っ白になった。光?
と横の車道を車が走っていった。おそらくヘッドライトの明かりが僕を照らしたのだろう。
気がつくとアレはいなくなっていた。震える足を叱咤し、走って帰った。さっきも走っていたのにその疲れなど忘れて、ただひたすらに走った。
おそらく10分ほどで着いたのだろうがとてつもなく長く感じた。
そして僕は家に無事帰った。ずっと生きた心地がしなかった。
家族を起こさないようにこっそりと自室へ移動する。
階段を上がりすぐ右へ。奥の部屋が自室だ。ドアをゆっくりと開け入った。部屋の真ん中に黒くて、大きさがサッカーボールや猫ぐらいの丸いものが落ちていた。
そしてそれの光る目が僕を捉えた。
そしてのっそりと動き始め、甘えた声で鳴きながら僕の足に体を擦り付けてくる。飼い猫のネコ吾郎だ。
ただいま、ネコ吾郎。声をかけつつ触ろうとした瞬間、ネコ吾郎が驚いたように跳ねた。そして部屋から慌てて逃げていく。
そして部屋に僕一人。そして二階のベランダから
「あん、た、殺せ。殺せ殺せ殺せ。もう助からない」
と聞こえた。
自分の実体験を基に作った話
みなさんも夜道を歩く際には気を付けて




