帝都への帰還
わたしはプチドラを抱いて、足早に市庁舎を出た。契約書は、お互いに同じものを1通ずつ持っているから、仮に紛争になったとしても(そんなことは有り得ないだろうけど)、安心。あとは、駐在武官(親衛隊)の交代時期に宝石を帝都まで運ばせ、バイソン市の出先機関に納入するだけだ。紆余曲折はあれ、どうにか契約締結にこぎつけた以上、この町に留まっている理由はない。隻眼の黒龍に乗って、退散することにしよう。ここにいても、アイアンホースから馬鹿馬鹿しい頼み事をされるだけだろう。
「それじゃ、そろそろ帝都に戻りましょうか」
すると、プチドラは「えっ!?」という顔でわたしを見上げ、
「このまま帰るの? 積み残しになってる問題が、いくつか残っているような気がするんだけど……」
「積み残しって……、まだ、何か、あったっけ?」
「秘書のパークとの約束とか、ツンドラ候のこととか」
そういえば、パークには、「アイアンホースを説得する」とか大ウソついてたっけ。彼がそれを今も信じてるなら、哀れとしか言いようがない。ツンドラ候も、わけも分からずに捕まって、今も拘留されたままだ。でも、そんなの、わたしの知ったことではない。
「いいのよ。パークにもツンドラ候にも、各自で一層の奮励努力をしてもらいましょう。とにかく今は、一刻も早く、帝都に戻るのよ。さあ、急いで」
プチドラは、体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。わたしがその背中によじ登ると、隻眼の黒龍はコウモリの翼をさらに大きく広げ、大空に舞い上がった。
隻眼の黒龍は、バイソン市を出ると、大河に沿って「五色の牛」同盟を構成するオックス、カーフの上空を通過、数日後に帝都に到着した。帝都の一等地にある屋敷の玄関先では、この前と同じように、駐在武官として派遣された親衛隊員が一列に整列し、わたしを出迎えた。
隻眼の黒龍の背中から降り、屋敷に入って応接間で一服していると、駐在武官リーダーのパターソンが難しい顔をしてやって来て、
「御用はお済みでしょうか。実は、カトリーナ様が発たれてから、大変なことになっていまして……」
「そりゃ、ツンドラ候が急にいなくなったんだから、そうなるでしょ。でも、ツンドラ候は、一応、無事よ。バイソン市で拘留されてるけどね。帝都には、まだ、この話は伝わっていない?」
パターソンは首を何度か横に振ると、腰をかがめてわたしの耳元に口を近づけ、
「カトリーナ様とツンドラ候とニューバーグ男爵が乗った馬車から、ニューバーグ男爵を残し、おふたりが行方不明となりましたことから、ある噂が相当の信憑性をもって広がっておりまて……」
「噂くらい、勝手に言わせておけば?」
「いえ、それが……、ツンドラ候とカトリーナ様が駆け落ちしたという話なので、どうしたものかと……」




