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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第9章 おぞましい夜
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破滅へのカウントダウン

 日が暮れて、辺りはすっかり暗くなった。公園には、再び、幻影の、ただし質感や量感まで本物ソックリのオシャレな小屋が現れ、猿ぐつわと目隠しと(後ろ手に)手錠をされたゴリラ……ではなくツンドラ候が、その小屋の中に運び込まれた。

 クラウディアは、わたしから媚薬「ムッフッフ」を受け取ると、ククク笑い、

「ゴリラなら、幻術も効きやすいでしょう。カトリーナさんは、外で、しばらく待っていてください。魔法をかけた後、わたしもすぐに出てきますから」

 段取りとしては、クラウディアが、まず、ツンドラ候の口に媚薬を流し込んで「その気」にさせ、次に、ブライアンが小屋の中に入ると、ツンドラ候にはブライアンが美しい女性に見えるように(ついでに言えば、ブライアンの○○○が、女性の☆☆☆に見えるように!)魔法をかけ、最後にツンドラ候の猿ぐつわと目隠しと手錠を外して出てくるという、至極簡単なもの。避難命令を受けて人々が集まってきたところで、オシャレな小屋がスッと消失すれば、ブライアンのとっても恥ずかしい姿が人々の目にさらされることになる。


 しばらくすると、黒いフード付きローブに身を包んだ2人組が、怪しさ丸出しで公園にやって来た。ブライアンとパークだろう。2人はキョロキョロと周囲を見回し、幻影のオシャレな小屋を指さし、お互いにうなずき合った。

「では、私は用を済ませてくるからな。え~と……、大丈夫なんだろうな。本当に、絶対だな」

「ご心配なく。絶対安全ですので、心配は要りません。心ゆくまで楽しんでほしいという支持者の心づくしでございます」

 ブライアンであろう、ひとりが小屋のドアを開け、その中に入っていった。もうひとりは、「大役を果たした」とばかりにホッと胸をなぜおろし、そそくさと引き揚げていった。


 そして……、

「さあ、お楽しみは、これからですよ」

 いつの間に戻ったのか、クラウディアが、わたしの傍らで口に手を当ててニヤニヤしている。

「うまくいきました。今頃、あのゴリラは、自分の目の前にいる人をカトリーナさんと思いこんで……、そして、あんなことや、こんなことや……、それに、とても口では言えないことまで……」

「えっ!?」

 一瞬、背筋に寒気が…… なんというか、なんとも言えないけど……、まあ、いいか。

 そのうちに、小屋の中から、「ウォッ!」とか、「ンガッ!」とか、声が漏れ出してきた。中ではどんなことが行われているのだろう。あまり想像したくはないが……

 町の人たちも、1人、2人と、少しずつ公園に集まってきた。避難命令の効果だろう。ただし、誰もが皆、一様に、合点がいかなさそうに首をかしげている。それはそうだろう。今は災害なんか発生していないんだから。

「これだけ暗いと見にくいな」

 ガイウスはニヤリとして呪文を唱え、数個の光の球をオシャレな小屋の周囲に飛ばした。これで、小屋が消失すればブライアンの恥ずかしい姿は丸見え。(彼にとっての)破滅へのカウントダウンが始まった。

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