ゴリラではないが捕獲作戦
玄関先では、ドンドラ侯がドンドンと突き破らんばかりの勢いでドアをたたいていた。
わたしは自らドアを開け、
「あらあら、どなたかと思いましたら、あなたでしたか、ツンドラ候」
「おお、ウェルシー伯ではないか! 戻ってたなら声をかけてくれよ、水くさいぜ!!」
ツンドラ候は巨体を揺らし、雄叫びを上げながら、文字どおり、狂喜乱舞。
わたしは内心ニヤリとしながら、
「いろいろと事情がありまして、なかなかお会いする機会がありませんでした。そのお詫びではないのですが、これからゲテモン屋などいかがでしょうか。再会を祝して、ということで」
「そうか、そういうことなら喜んで! うぉー、ゲテモンが俺様を呼んでるぜ!!」
ツンドラ候は拳を天に突き上げた。本当に分かりやすい人だ。わたしは、ツンドラ候に促され、プチドラを抱き、貴重品等(伝説のエルブンボウと媚薬「ムッフッフ」)の入った風呂敷包みを持って、(ツンドラ候の乗ってきた)馬車に乗った。
ところが……、進んでいく馬車の中で、
「ちょっと待ったー! そんな話は、認められな~い!!」
と、ツンドラ候の臣下で秘書的役割でもあるニューバーグ男爵が、大声を上げた。
「まあ、そう言うなよ。たまにはいいじゃないか。ウェルシー伯と、こうして会って話ができることも、滅多にないんだ」
「いえ、いけません。絶対にダメ。明日は重要な会議があるのですよ。ゲテモン屋に行ってる場合じゃない」
ツンドラ候は、少ないボキャブラリーを駆使して懸命に説得に当たったが、ニューバーグ男爵は頑として聞かない。横で見ていると、おねだりする子供と母親のような印象。ニューバーグ男爵のことは、すっかり忘れていたけど、彼がいても計画に支障はない(と思う)。ガイウスやクラウディアたちが、うまくやってくれるだろう。
ヒヒィ~~ン!!!
突然、馬のいななく声が聞こえ、馬車はガクンと急停止。どうやら、始まったようだ。
ニューバーグ男爵は「一体、なんなんだ」と窓から顔を出し、辺りを見回した。そして、次の瞬間には、ギョッとして首を引っ込め、
「たっ、大変です! 馬車は、何者かに取り囲まれています!!」
「取り囲まれてるって……、だからどうだというんだ? その程度のことで、うろたえるんじゃない」
さすがはツンドラ候、肝が据わっている。でも、ダーク・エルフが相手では、勝手が違うだろう。すぐに馬車のドアが開けられ、灰色のフード付きローブに身を包んだダーク・エルフが、ツンドラ候とニューバーグ男爵を、抵抗のいとまさえ与えず、魔法で眠らせてしまった。御者と馬は既に殺害されている。
その(侵入してきた)ダーク・エルフは、フードを取り、ニッコリとVサイン。
「うまくいきました。あとは、このゴリラ、いえ、失礼、ツンドラ候を運ぶだけです」
と、ひと仕事を終えて額の汗をぬぐうクラウディアだった。




