ないものを生じさせるには
わたしが隻眼の黒龍の背中から降りると、パターソンはおもむろにわたしに近づき、
「カトリーナ様、お疲れでしょう。とりあえずは屋敷の中へ」
「ありがとう。でも、ゆっくりしているヒマはないのよ。ツンドラ候を捕まえないと」
「ツンドラ候ですか、あの人は……、ははは……」
パターソンからは失笑が漏れた。他の駐在武官も皆、口元を抑えている。話によれば、ツンドラ候は、毎日のように疲れた顔で、「ウェルシー伯は、まだ戻らないのか」と、やって来るとのこと(次期皇帝選出委員会の委員に選ばれ、大変な毎日を送っているらしい)。でも、それなら好都合、こちらから捜す手間が省けた。ツンドラ候のことだから、「たまには仕事をサボって史上最凶最悪のゲテモンを食べに行こう」と誘えば、喜んで乗ってくるだろう。連れ出すのは簡単。問題は、ツンドラ候が男色に興味があるかどうか。常識的に考えれば、興味を示すとは考えにくい。だとすれば、ないものを生じさせなければならないが、それは、通常の方法では不可能で……
うつむいて、じっと考えていると、パターソンは不思議そうにわたしの顔を覗き込み、
「カトリーナ様、何か、お考えでしょうか」
「なんでもないわ」
わたしは、子犬サイズに体を縮めたプチドラを抱き上げ、パターソンに先導されて屋敷に入った。そして、部屋に荷物を置き、とりあえず応接間で一服。パターソンたちが通常業務に戻り部屋に誰もいなくなると、プチドラを抱き、こっそりと「開かずの間」を通って地下室に。
地下室では、例によって、ガイウスとクラウディアが紅茶を飲みながら談笑していた。一応、「すべてのエルフの母」の奪還を目指す秘密結社のはずだけど、のんびりとしたところはエルフの性分だろう。
クラウディアは、わたしの姿を認めると、椅子から立ち上がり、
「まあ、カトリーナさん! 今まで、どこに? 急に姿が見えなくなったから、心配で心配で!」
と、わたしに抱きつき、声を上げて泣き出した(クラウディアたちには、留守にすると言ってなかったっけ……)。
「ごめんね。すぐに済むと思った用がなかなか済まなくて…… 実は、その用もまだ片付いてないの」
「『用』というと……、難しい話しかね? 我々にできることなら手伝うよ」
ガイウスが言った。こういう人が好いところもエルフの特徴だ。本来なら、あまり借りを作りたくないところだけど、今回ばかりは仕方がない。
「実はね、なんというか…… 非常に言いにくいんだけど、要するに、超強力な媚薬みたいな……、その気がなくても関係なしみたいなのは、ないかしら」
わたしは要点をかいつまんで説明した。男に全然興味がない男でさえその気にさせて、男の○○○に自分の△△△を×××してしまう(直接口に出すのがはばかられたので)くらいに強力な、媚薬とか魔法はないかと。しかし、これには、さすがのガイウスもクラウディアも唖然として、本当に、目が点に……




