ゴリラのようにたくましい男
プチドラは、一瞬、「???」と首をひねったが、すぐに、
「マスター、もしかして、その『心当たり』というのは、あの人?」
「ええ、条件に合う人といえば、あの人以外いないでしょう」
その人、すなわち、ゴリラのようにたくましい男とは、もちろん、ツンドラ候。彼の巨体から繰り出される×××にかかれば、ブライアンはイチコロだろう。その行為の最中の、とっても恥ずかしい場面を市民の目にさらせば、ブライアンの評判はガタ落ち、選挙はアイアンホースが逆転勝利を収めるはず。ただ、ツンドラ候にそういった趣味があるかどうかは分からない。でも、なんとかなる、いや、なんとかせねば……
「プチドラ、突然だけど、帝都に戻るわ」
「えっ!? いいけど、随分と急だね。アイアンホースには言わなくていいの?」
「投票日まで時間がないし、それに、言っても意味がないわ。プチドラ、すぐに隻眼の黒龍の姿に戻ってくれない?」
プチドラは、体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。久々の隻眼の黒龍モード。
わたしはヨイショとその背中によじ登り、
「それじゃ、帝都に戻りましょう。全速力。でも、わたしを振り落とさないようにね」
隻眼の黒龍はフワリと宙に舞った。投票日までは、あと2週間程度。帝都までの往復の日数その他を考えれば、一分一秒でも惜しい(なお、貴重品(伝説のエルブンボウ)だけは、常に袋に詰めて持ち歩いていたので、宿所のホテルに取りに戻る必要はない)。ドラゴンを見た市民が驚いて騒ぎ出したら……、多分、アイアンホースがなんとかするだろう(という希望的観測)。
隻眼の黒龍は、巨大なコウモリの翼で町に大きな影を落としながら、上空を飛んだ。でも、もともと市民があまり出歩いていなかったせいか、思いのほか、大した騒ぎにはならなかった。市街地を取り囲む城壁のところでは、このような場合のマニュアル化された対応だろう、守備隊から矢を射かけられたが、隻眼の黒龍のささやかな火炎攻撃により完全に沈黙した。
バイソン市を出ると、大河に沿って、(地上からは、小さな黒い固まりにしか見えないくらいに)適当に高度を保ちながら、「五色の牛」同盟を構成するオックス、カーフの上空を通過。そして、数日後には、大河の畔に広がる帝都の町並みが目に入ってきた。
隻眼の黒龍は徐々に高度を下げ、帝都の一等地にある屋敷の中庭に降り立った。玄関からは、駐在武官として派遣された親衛隊員が次々に飛び出し、一列に整列。そのうちの一人が、一歩、前に出て、
「お帰りなさいませ、カトリーナ様!」
「ただいま……って、え~っと、ごめんね、名前は……」
「ジュリアン・レイ・パターソンです。御用は首尾よくいきましたか?」
久々の登場で忘れていたけど、ブロンドの髪と青い瞳がチャーミングな駐在武官リーダー、パターソンだった。




