武勇伝
今日のパトリシアは、おかしかった(おかしいのはいつものことだけど、さらに輪をかけて)。表面上は笑顔を作っているが、机の下で拳を握りしめてプルプルと震わせていたり、足を小刻みに上下にさせたり(これは、要するに貧乏ゆすり)。
でも、アイアンホースはそのことに気付かず、一人で気持ちよさそうに無意味な長広舌をぶっている。
「パトリシアとも、こうして仲直りできたわけで、この選挙に勝てば、そろそろ後継者の選定にもかからねばと考えているわけでございまして……」
わたしは、思わず、唖然。この選挙では当選が危ぶまれていたのではなかったか。もしかすると、パトリシアにボコられた時に頭を打ちつけ、その打ちどころが悪かったのかもしれない。
こんなふうに呆れかえっていると、パトリシアは、またもや(しかも今度は両手で)テーブルをドンと叩いて立ち上がった。
アイアンホースは、一瞬ビクッとして、座ったままパトリシアを見上げ、
「パトリシアよ、どうしたのだい? さっきから…… 気分でも優れないのかい?」
「なんでも、ないわ……」
パトリシアは怒りを押し殺すように、再び椅子に腰掛けた。
時間がたつにつれ、パトリシアの表情は、徐々に殺伐としたものとなっていった。落ち着きなく周囲をキョロキョロと見回すしぐさも見せるようになった。何か別のことで頭が一杯なのか、料理にはあまり手をつけていない。でも、アイアンホースは相変わらず空気が読めないらしく、無意味な話を続けていた。
やがて、ついに忍耐も限界に達したのか、パトリシアは、テーブルに置いてあったナイフをつかみ、
「もう! いい加減にしなさいよ、このブタ!!」
と、アイアンホースに投げつけた。ナイフは彼の頭の上をかすめるように通過し、グサリと彼の背後の壁に突き刺さる。
アイアンホースは脅える目で、
「あ、あの……、パトリシア…… 一体、何を……」
「だから! ウザイって!! 言ってるだろ!!!」
パトリシアは椅子をつかんで投げつけた。アイアンホースは「ひぃー」と悲鳴を上げ、使用人を呼ぶ。パトリシアは、アイアンホースやわたしには構わず、ドスドスと大股に歩いて部屋を出ようとしたが、入り口のところで、ゾロゾロとやって来た使用人に阻まれて、部屋の中に押し戻されてしまった。
「放しなさいよ! こんなバカなことにつきあってるヒマはないのよ!!」
パトリシアは使用人を相手に、「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」の武勇伝。パトリシアを押さえようとしたアイアンホースは、プロレスさながらにフォークを額に突き立てられ、顔面血まみれにされてしまった。
わたしはプチドラと無言で顔を見合わせ、「ふぅー」と、ため息。仕方がないから、今日のところはこれで引き揚げよう。わたしはプチドラを抱き上げ、正面玄関に向かった。すると、そこには、いつ用意してくれたのか、馬車が1台停車していた。




