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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第7章 パトリシアとアイアンホース
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ウザくて気味の悪い脂肪の塊

 パトリシアは、昨日の暴れっぷりがウソのような陽気で、わたしの手を取り、

「ようこそ、伯爵様、また会えて、とってもうれしいわ!」

 すると、アイアンホースはパトリシアの肩をポンとたたき(しかし、その瞬間、パトリシアは顔をしかめた)、

「パトリシア、しばらくの間、伯爵様と話をしているがいい。今日はとてもすばらしい日だからね。そうだ、今日を記念日にしよう。早速、その準備をしなければ! おい、ジンク、ちょっと来い!!」

 そして、ジンクを伴って、(わたしが乗ってきた)馬車に乗り、どこか(市庁舎だろうか?)へ行ってしまった。アイアンホースはまるで風のように、いわゆる「突っ込み」を入れるヒマさえないくらい、素早かった。


 二人の姿が見えなくなると、パトリシアは、「ふぅー」と口から息を吐き出し、

「あの人の言うとおりね、単純バカは扱いやすいわ」

「単純バカって?」

「そうよ。あのブタ、ウザイだけの脂肪の固まりよ。このところは、気味悪さにさらに磨きがかかってきたわ」

 散々な言われようだけど、「ウザイ」とか「脂肪の固まり」がアイアンホースを指すことは明らか。

「ねえ、伯爵様、わたしの部屋に来ない?」

 パトリシアは、わたしの手を引き、こちらの都合などお構いなしに、半ば強制的に連行していくような形で、自分の部屋に連れ込んだ。部屋は広々として(30畳以上あるだろうか)、その中に、華美な装飾を施された椅子やテーブルやその他諸々の生活用品の他、いかにも「女の子」らしく、ぬいぐるみやおもちゃなどの小物がひしめき合っていた。

 わたしは部屋の中を見回しながら、プチドラをテーブルの上に座らせ、

「昨日はお父様とすごいことになってたようだけど、今日は一転して…… どういうことか、教えてくれない?」

「別に、どうということはないわ。少しばかり優しくてやったら、勝手に浮かれて舞い上がったのよ。ブタのツラを拝まされるのも今日までと思えば、多少のことはガマンよ」

「えっ、『今日まで』って?」

「あら…… でも、なんでもないわ。気にしないで。伯爵様には関係のない話だから」

 そのように言われると、何かとても重要な話のように聞こえてしまう。詳細を尋ねようとしても、パトリシアは「なんでもない」とか「伯爵様には関係ない」とか繰り返すばかりだった。気になるけど、わたしに話す気は毛頭なさそうだし、しつこくきいても嫌がられるだけだろう。この程度で止めにしよう。


 部屋でパトリシアと取り留めのない話をしていると、やがて、トントコトンと(独特のリズムを付けて)ドアをノックする音が聞こえた。

 すると、パトリシアは「チッ」と舌打ちし、

「また来やがったのね、あのブタ」

 トントコトンがアイアンホース独特の調子なのだろう。思いのほか早く、用事を済ませて戻ってきたようだ。

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