儀式の始まり
お葬式当日、しかし、この日の儀式は、「前夜祭」というと変だけど、本格的な式典の前の「前座」のような(やっぱり変な言い方だけど)位置付けで、要は、宮殿に諸侯その他が集まり、亡くなった皇帝の遺徳を偲び、語り合うというもの。わたしは黒っぽい葬儀用の礼装(つまり喪服)を着てプチドラを抱き、やはり黒っぽく塗装し直した馬車に乗った。
パターソンは、馬車のドアを閉める際に、
「カトリーナ様、では、お気をつけて」
「とりあえず、ツンドラ候や帝国宰相にはあまり顔を合わせないようにするわ」
なんだか気が重い。できるなら出席したくないけど、そういうわけにはいかないだろう。宮殿までの道すがら、出てくるのはため息ばかり。
「気乗りがしないのは仕方ないけど、あまり顔に出さないようにしようよ」
プチドラも、内心ではリラクタントらしい。
宮殿の前は、馬車でごった返していた。係員があちこち走り回り、御者に罵倒されながらも、誘導に努めている。こんな場合の誘導マニュアルくらいは当然あるはずなのに、なぜだか馬車は渋滞し、なかなか前に進まない。なんだか、前途多難な予感。
結局、宮殿前で1時間程度待たされたあと、ようやく宮殿内に足を踏み入れることができた。おかげで、式典の前から、既に疲労困憊モード。誰もがそうだろうと思って周囲を見回してみると、意外なことに、獲物を狙う猛禽類のようにギラギラと目を輝かせている連中も多い。一体、何が楽しくて式典なんか……
わたしがガックリと肩を落として宮殿の廊下を歩いていると、
「ん? あなたはウェルシー伯、やはりあなたもですか」
いきなり声をかけられたので、振り向くと、そこにいたのは、
「ああ、あなたは……(少し間を置き)……パーシュ=カーニス評議員。ご無沙汰しております」
「このような儀式は苦手ですかな? しかし、あまり色に出すのはよろしくない。油断していると、つけこまれますぞ」
この人は、いつも飄々としていて、何を考えているのかよく分からない。
「苦手というよりも、あまりわたしの趣味に合わないのです」
「ほぉ、『趣味に合わない』ですか、なるほどね。ということは、大層よい趣味をお持ちなのでしょうな。ふむふむ、一度、語り合ってみたいものだ」
なんだか、聞きようによっては、トゲのある言い方だけど……
パーシュ=カーニス評議員は言葉を続け、
「実はこの私も、最初に帝国宰相を冷やかし……いや、挨拶だけして、早々に引き揚げようと考えているのですよ。まだ発足していない次期皇帝選出委員会を巡って、既に暗闘が始まっているという話もありますからな。まさしく『君子危うきに近寄らず』ですな」
パーシュ=カーニス評議員は「ハッハッハッ」と朗らかに、というか、まるで他人事のように笑った。
わたしは、評議員とともに廊下を抜け、大広間の入り口に設けられた受付で出席者名簿に氏名を記入。大広間に入ると、そこは、さながら政治家の資金集めパーティーのような状況だった。