勝負の3本目
事務所の前で少し待っていると、やがてドアが開き、パークが顔を見せた。
「ゲッ、また…… いえ、失礼いたしました。伯爵様、今回は、一体、どのような……」
「お邪魔だったかしら。でも、今日は、是非ともお邪魔して、ブライアンさんと話をしたいのよ」
パークは「分かりました」とうなずき、事務所内に消えた。そして、しばらくするとドアが開き、今度はブライアンがイボイノシシのような地顔にニコニコと愛想笑いを浮かべ、わたしを迎えた。
「伯爵様、ようこそいらっしゃいました。昨日から、足繁くおいでいただき、ありがとうございます。本日は、どのようなご用件でございますか?」
「非常に重要なことよ。しばらく、あなたと2人で話をしたいんだけど、いいかしら?」
「承知いたしました。では、こちらへどうぞ」
昨日から続けて3回目だから、内心ではウンザリしているだろうが、ブライアンの態度から、そのようなことは読み取れない。ブライアンはわたしを昨日と同じ部屋に案内し、椅子を勧め、自分も(テーブルを挟んで)その向かいの席に腰掛けた。パークは、昨日と同様に、手際よく2人分の紅茶を用意すると、一礼して部屋を出た。
わたしが、ひと口、紅茶を飲み、ティーカップをテーブルの上に置くと、ブライアンは声を低くして、
「伯爵様、その『非常に重要なこと』とは、一体、どのようなことでございましょう?」
「実はね、とっても、ものすごく、超弩級に重要なことなんだけど……」
わたしは特に意味もなくニッコリと微笑み、椅子から立ち上がった。ブライアンは、一応、顔ではニコニコと笑みを浮かべながら、わたしの意図が読めないのだろう、「は?」と首をひねっている。
「公職の候補者になると、いろいろと大変でしょう。たまには、羽目を外してはどうかしら?」
わたしはグッと上半身を曲げ、右手の掌をドンとテーブルについた。そして、ブライアンに思いきり顔を近づけて、左手で彼の頬をすりすりしようとしたら、
「なっ! 何を!!」
ブライアンは、突如、(おそらくは恐怖で)目を大きく見開き、椅子を倒しながら後方に飛び退いた。さらに、わたしが(テーブルを乗り越えて)ブライアンに近づくと、彼はその分だけ後方に退く。これだけ露骨に拒否されるのは、なんとも腹立たしいが、そうこうしているうちに、ブライアンを部屋の隅に追い込んでしまった。
「いい加減、観念しなさいよ。『据え膳食わぬは男の恥』って言うでしょ」
わたしが目で合図を送ると、プチドラは小さくうなずく。金縛りの魔法が決まったらしく、ブライアンは(ブルブルと体を小刻みに震わせるだけで)身動きがとれない。わたしが「最後の仕上げ」とばかりに、もう一歩近づくと、
「ああぁぁぁーーー!!!」
ブライアンは、イボイノシシが絞め殺されるような、この世のものとは思えない叫び声を上げ、白目をむき、口から泡を吹いて気を失った。ここまでくると、もはや基地外じみてるけど、一体、なんなんだ?




