第2ラウンド
やがて、馬車は、ブライアンの事務所前に到着した。わたしは、高級酒の入った皮袋を背負って馬車を降り、事務所の入り口のドアをドンドンと何度も叩く。
「ブライアンさん、いる? いるなら、開けて頂戴」
程なくしてドアが開き、出てきたのは、やはり、どこから見ても平々凡々の兄ちゃん、サイモン・パークだった。
「ああ、えーと…… 伯爵様、今日は午前中にもいらっしゃいましたが……、それとも、別のご用件でしょうか。今回は、どのようなことで……」
「ブライアンさんに会いたいのよ。いるわよね」
「はい、一応、事務所にはおりますが…… 少々お待ち下さい。ブライアンに確認してまいりますので」
パークは一礼すると、事務所の奥に消えた。
そして、しばらくすると、再び事務所のドアが開き、
「これはこれは、伯爵様、なんと言いますか、本日は何度も足を運んでいただき、ありがとうございます」
ブライアンがイボイノシシみたいな顔をして現れ、愛想笑いを浮かべながら、深々と頭を下げた。
「さあさあ、伯爵様、どうぞ、こちらへ…… ああ、そうだ、パーク、伯爵様の荷物をお持ちするんだ」
パークは、言われたとおりに、しかし、不審そうな目で高級酒が入った皮袋をジロジロと見回しながら、わたしの背中から皮袋を下ろし、「よいしょ」と重そうに持ち上げた。
わたしが通されたのは、事務所の一室(午前中に来た時、通された部屋である)。
「さあ、どうぞ、伯爵様、お掛け下さい」
ブライアンは、午前と同様、わたしに椅子を勧めた。膝の上にプチドラを乗せて椅子に腰掛けると、ブライアンも(テーブルを挟んで)向かいの席に腰を下ろす。
パークは高級酒の入った皮袋を注意深くテーブルの上に(邪魔にならないように端の方に)置くと、手際よく二人分の紅茶を用意して、部屋を出た。
それを見届けると、ブライアンは、
「申し訳ございませんが、紅茶の種類は、あいにくと一種類しかなく……、選挙事務所ですので、幾種類もそろえる余裕がございませんで……」
「気にしないで。別に紅茶を賞味しに来たわけじゃないから」
でも、そう言いながらも、とりあえず紅茶をひと口。なかなかいける。
「伯爵様、午前中にもいらっしゃいましたが、今回は、一体、どのようなご用件でしょうか」
ブライアンは、ニコニコと笑みを絶やさない。感じはよさそうに見えるけど、これも選挙用・有権者用の顔だろう。アイアンホースもそうだったように、部下のパークが相手の場合(特に、パーク以外に誰もいない場合)には、豹変するのではないだろうか。
わたしは、机の上にティーカップを置き、
「用というのはね、つまり、なんというか……」
と、指でプチドラの背中を突っついて、金縛りの合図を送った。




