表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第6章 選挙と「家庭の事情」
50/82

第2ラウンド

 やがて、馬車は、ブライアンの事務所前に到着した。わたしは、高級酒の入った皮袋を背負って馬車を降り、事務所の入り口のドアをドンドンと何度も叩く。

「ブライアンさん、いる? いるなら、開けて頂戴」

 程なくしてドアが開き、出てきたのは、やはり、どこから見ても平々凡々の兄ちゃん、サイモン・パークだった。

「ああ、えーと…… 伯爵様、今日は午前中にもいらっしゃいましたが……、それとも、別のご用件でしょうか。今回は、どのようなことで……」

「ブライアンさんに会いたいのよ。いるわよね」

「はい、一応、事務所にはおりますが…… 少々お待ち下さい。ブライアンに確認してまいりますので」

 パークは一礼すると、事務所の奥に消えた。

 そして、しばらくすると、再び事務所のドアが開き、

「これはこれは、伯爵様、なんと言いますか、本日は何度も足を運んでいただき、ありがとうございます」

 ブライアンがイボイノシシみたいな顔をして現れ、愛想笑いを浮かべながら、深々と頭を下げた。

「さあさあ、伯爵様、どうぞ、こちらへ…… ああ、そうだ、パーク、伯爵様の荷物をお持ちするんだ」

 パークは、言われたとおりに、しかし、不審そうな目で高級酒が入った皮袋をジロジロと見回しながら、わたしの背中から皮袋を下ろし、「よいしょ」と重そうに持ち上げた。


 わたしが通されたのは、事務所の一室(午前中に来た時、通された部屋である)。

「さあ、どうぞ、伯爵様、お掛け下さい」

 ブライアンは、午前と同様、わたしに椅子を勧めた。膝の上にプチドラを乗せて椅子に腰掛けると、ブライアンも(テーブルを挟んで)向かいの席に腰を下ろす。

 パークは高級酒の入った皮袋を注意深くテーブルの上に(邪魔にならないように端の方に)置くと、手際よく二人分の紅茶を用意して、部屋を出た。

 それを見届けると、ブライアンは、

「申し訳ございませんが、紅茶の種類は、あいにくと一種類しかなく……、選挙事務所ですので、幾種類もそろえる余裕がございませんで……」

「気にしないで。別に紅茶を賞味しに来たわけじゃないから」

 でも、そう言いながらも、とりあえず紅茶をひと口。なかなかいける。

「伯爵様、午前中にもいらっしゃいましたが、今回は、一体、どのようなご用件でしょうか」

 ブライアンは、ニコニコと笑みを絶やさない。感じはよさそうに見えるけど、これも選挙用・有権者用の顔だろう。アイアンホースもそうだったように、部下のパークが相手の場合(特に、パーク以外に誰もいない場合)には、豹変するのではないだろうか。

 わたしは、机の上にティーカップを置き、

「用というのはね、つまり、なんというか……」

 と、指でプチドラの背中を突っついて、金縛りの合図を送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ