作戦の第二弾
わたしは馬車に乗り、来た道を反対に市庁舎に戻った。最上階の市長室ではアイアンホースが待っていて、
「伯爵様、あっ、あっ、按配は…… いかがでしたでございますでしょうか?」
パトリシアのことを考えていたのか、言葉遣いがなんだかおかしくなっている。
でも、それはそれとして、
「残念ながら、失敗でした。ブライアンのやつ、すっとぼけて、お金には見向きもしなかったわ」
「やはりそうでしたか。あのヤロウ……いえ、ブライアン氏は、志操堅固で知られておりまして、多分、いくらお金を積んでも、見向きもしないのではないかと……」
アイアンホースは「はぁー」と小さくため息をついた。「あまり期待せず」と言ってたけど、内心ではそうでもなかったのだろうか。結構、落胆しているようだ。
「でも、市長、そんなにガッカリしないでください。買収はうまくいきませんでしたが、手段はそれだけではありません。次はうまくいくと思いますよ。多分……」
「ええっ? と、おっしゃいますと??」
アイアンホースは顔を上げた。
「お金がダメでも、お酒があります。例えば、ブライアン氏が酔っ払って大暴れすれば、すごいスキャンダルになりますよ」
ありきたりの方法だけど、ブライアン氏には、酩酊状態になってもらって、いっぱい、恥ずかしいことをしてもらおう。場合によっては、暴力行為やワイセツ罪の現行犯で逮捕できるかもしれない。
ところが、アイアンホースは「うーん」と首をひねり、
「いや、しかし…… ブライアン氏が酒を飲むという話は聞きません。せっかくのご提案ですが、果たして、どんなものでしょうかね。正直なところ、うまくいくとは……」
アイアンホースは、またしても懐疑的だった。でも、何もしないでいるよりもマシだろう。わたしはアイアンホースに頼み、高級酒(アルコール度数50%以上)の入った大きな皮袋を用意してもらって、馬車に積み込んだ。
昼過ぎに(これは、出発するまでの間に、市長室で昼食を取ったため)、馬車は、ブライアンの事務所に向け、静かに動き出した。高級酒入りの皮袋は2リットル入りのペットボトル程度の大きさ(内容量もそれくらいだろう)。プチドラは、その皮袋を見ながら、よだれを垂らしている。
「ダメよ。これはブライアンに飲ませるんだから」
「うん、わかった……」
そう言いながらも、プチドラは、未練たっぷり、皮袋に体をすり寄せている。
「でも、マスター、ブライアンさんが、お酒を飲まなかったら、どうするの?」
「彼の意向なんか関係ないわ。『イヤだ』と言っても飲んでもらうんだから」
すなわち、プチドラに金縛りの呪文をかけてもらって、無理矢理、口に流し込もうという作戦。飲み干したところでブライアンの体を揺すぶって、アルコールが回るのを促進してやろう。今度こそ、うまくいく……はず。ただ、そんな保障は、どこにもないが……




