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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第6章 選挙と「家庭の事情」
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作戦の第二弾

 わたしは馬車に乗り、来た道を反対に市庁舎に戻った。最上階の市長室ではアイアンホースが待っていて、

「伯爵様、あっ、あっ、按配は…… いかがでしたでございますでしょうか?」

 パトリシアのことを考えていたのか、言葉遣いがなんだかおかしくなっている。

 でも、それはそれとして、

「残念ながら、失敗でした。ブライアンのやつ、すっとぼけて、お金には見向きもしなかったわ」

「やはりそうでしたか。あのヤロウ……いえ、ブライアン氏は、志操堅固で知られておりまして、多分、いくらお金を積んでも、見向きもしないのではないかと……」

 アイアンホースは「はぁー」と小さくため息をついた。「あまり期待せず」と言ってたけど、内心ではそうでもなかったのだろうか。結構、落胆しているようだ。

「でも、市長、そんなにガッカリしないでください。買収はうまくいきませんでしたが、手段はそれだけではありません。次はうまくいくと思いますよ。多分……」

「ええっ? と、おっしゃいますと??」

 アイアンホースは顔を上げた。

「お金がダメでも、お酒があります。例えば、ブライアン氏が酔っ払って大暴れすれば、すごいスキャンダルになりますよ」

 ありきたりの方法だけど、ブライアン氏には、酩酊状態になってもらって、いっぱい、恥ずかしいことをしてもらおう。場合によっては、暴力行為やワイセツ罪の現行犯で逮捕できるかもしれない。

 ところが、アイアンホースは「うーん」と首をひねり、

「いや、しかし…… ブライアン氏が酒を飲むという話は聞きません。せっかくのご提案ですが、果たして、どんなものでしょうかね。正直なところ、うまくいくとは……」

 アイアンホースは、またしても懐疑的だった。でも、何もしないでいるよりもマシだろう。わたしはアイアンホースに頼み、高級酒(アルコール度数50%以上)の入った大きな皮袋を用意してもらって、馬車に積み込んだ。


 昼過ぎに(これは、出発するまでの間に、市長室で昼食を取ったため)、馬車は、ブライアンの事務所に向け、静かに動き出した。高級酒入りの皮袋は2リットル入りのペットボトル程度の大きさ(内容量もそれくらいだろう)。プチドラは、その皮袋を見ながら、よだれを垂らしている。

「ダメよ。これはブライアンに飲ませるんだから」

「うん、わかった……」

 そう言いながらも、プチドラは、未練たっぷり、皮袋に体をすり寄せている。

「でも、マスター、ブライアンさんが、お酒を飲まなかったら、どうするの?」

「彼の意向なんか関係ないわ。『イヤだ』と言っても飲んでもらうんだから」

 すなわち、プチドラに金縛りの呪文をかけてもらって、無理矢理、口に流し込もうという作戦。飲み干したところでブライアンの体を揺すぶって、アルコールが回るのを促進してやろう。今度こそ、うまくいく……はず。ただ、そんな保障は、どこにもないが……

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