第1ラウンド
やがて、馬車は、ブライアンの事務所前に到着。わたしは、「自分が出てくるまで待ってるように、絶対に動いてはならない」と御者に言うと、金貨1000枚が詰まった大袋(中には金貨100枚入りの小袋が10袋入っている)を背負い、馬車を降りた。プチドラは、大袋の中に体を滑り込ませ、頭だけを外に出している。ドラゴンの本能だろうか。直接金貨の肌触りは楽しめないが、一応(袋入りとは言え)、金貨に囲まれているということで。
事務所の入り口のドアを叩くと、出てきたのは、どこから見ても平々凡々の兄ちゃん、サイモン・パークだった。
「ごきげんよう。ブライアンさんに会いたいんだけど、いる?」
「えっ!? あっ、うっ、とっとっとっ…… はい、今ならいますが、あの……」
パークは、なぜか、しどろもどろになった。人の顔を見てあからさまにビックリするなんて、なんだかむかつく。
「どうしたの? それって、余りにも失礼じゃない?」
「あっ、いえ、申し訳ありません。でも、そうではないのですが、ただ…… とにかく、すぐに戻りますので、しばらくお待ち下さい。ブライアンに確認してまいります」
パークはドタバタと大きな音を立てて事務所の奥に消えた。一体、なんなんだか……
しばらくすると、再び事務所のドアが開き、
「これはこれは、伯爵様自らお越しとは、出迎えにも上がらず、失礼いたしました」
顔を出したのは、どことなくイボイノシシみたいな顔のブライアンだった。
「さあさあ、伯爵様、どうぞ、こちらへ。ああ、そうだ。パーク、伯爵様の荷物をお持ちしろ」
パークは、言われたとおり、金貨1000枚が入った袋(のみならず、プチドラも入っている)をわたしの背中から下ろすと、「よいしょ」と重そうに持ち上げた。
わたしが通されたのは、事務所の一室。よく見れば(どのように見ても同じだけど)、この前に来た時と同じ部屋だ。
「さあ、どうぞ、お掛け下さい」
ブライアンはわたしに椅子を勧め、自分も(テーブルを挟んで)その向かいの席に腰掛けた。パークは金貨の入った袋を注意深くテーブルの上に(邪魔にならないように端の方に)置くと、手際よく二人分の紅茶を用意し、気を利かせたつもりだろう、一礼して、部屋を出た。
それを見届けると、ブライアンは、
「伯爵様の好みに合いますかどうか…… でも、高級品と聞いていますので、さあ、どうぞ」
わたしは、とりあえず紅茶をひと口、
「なかなかだわ。市民派とか庶民派とか言われてる割には、豪勢ね」
「いえいえ、それは、来客用でございましてね。ところで、伯爵様、本日は、どのようなご用件でしょうか?」
用件とくれば、これからが正念場。うまくいくかどうか分からないが、やってみよう。




