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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第5章 選挙参謀
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また出た白い羽根帽子

 仕方がないので、わたしはプチドラを抱いて、Uターン。正面玄関前で馬車に乗った。御者はアイアンホースがいないのを見て、ホッとした様子。わたしが椅子に腰掛けるのを見て、馬に鞭を当てた。

 プチドラは、わたしを見上げ、

「マスター、どうするの? あんなに安請け合いしちゃって、大丈夫?」

「大丈夫じゃないと思うわ。でも、『なんとかする』って、言っちゃったからには……」

 差し当たって思いつくのは、スキャンダルで評判を落とすことくらい。不正な金銭(つまり、ワイロ)を受け取ったとか、酔っ払って大暴れして誰かに怪我をさせたとか、女性に乱暴しているところを取り押さえられたとか、有権者の投票行動に影響を及ぼすものでなければならない。ただ、ブライアンが自分から墓穴を掘るようなことはするはずがない。となれば、こちらから働きかけて、つまり、罠にはめて、ボロを出すように仕向ける必要があるが、うまくいくかどうか。


 馬車は、市長公邸の脇を、人が駆け足する程度のスピードで進んでいく。公邸の周囲には、それほど高くはないが、延々と、灰色の壁が続いている。この前に来た時は、白い羽根帽子の一味と思しき人影が、壁を乗り越えてどこかへ走り去っていった。わたしは、「もしかしたら、今回も」との期待を込め、馬車の窓に顔を寄せた。

 プチドラはわたしの肩に飛び乗り、耳元でささやく。

「マスター、どうしたの? 壁を見ていて、面白いの??」

「そうじゃなくて、今日も白い羽根帽子がひょっこり現れないかな、と思ってね」

「そんなこともあったね。でも、何度も同じことは起こらないと思うよ」

「そうよね、二匹目のドジョウ……じゃなくて、白い羽根帽子なんてことは……」

 わたしはプチドラと顔を見合わせて苦笑い。ところが、往々にして、起こるべきものは起こるべきときに起こるものであり……

「あっ! マスター!! あれ!!!」

 プチドラは、大きな声を上げ、窓を指差した。窓越しに外を見ると、丁度、前と同じように、白い羽根帽子が一人、市長公邸の壁を乗り越えようとしている。しかも、今回は、白いアイマスクをどこかに忘れてきたようで、素顔がバレバレ。距離があるのでよく見えないのが残念だけど、とりあえず男ということは分かった。白い羽根帽子の男は、地面に降りると、手で顔を覆い、走り去っていく。


 ともあれ、今が白い羽根帽子を捕まえるチャンス。全速力で馬車を走らせれば、あの男に追いつけるかもしれない。

「あの男を追いなさい!」

 しかし、御者は目を大きく見開き、ブルブル震える手でプチドラを指差しているだけだった。一体、何故?

「ペットが人語を喋ることはないからね。ボクが話すのを聞いてビックリしたんだよ」

 そういえば、一般大衆向けには、プチドラは(犬や猫と同じような)ペットという位置付けだった。非常に残念だけど、わたしは、「今、見たことと聞いたことを忘れなさい」と御者に厳重に口止めした上で、宿所のホテルに戻ることにした。

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