人為的な事故は厳禁
馬車は、美しく石畳が敷き詰められた清潔な市街を抜け、市長公邸に向けて、ゆっくりと進んでいった。昼過ぎだというのに、人通りは、あまりない。
アイアンホースはチラリと窓の外に目を遣ると、突如、前かがみになり、ようやく聞き取れるくらいの声で、
「ところで、伯爵様、その、選挙の件ですが……」
「ああ、そうね。馬車の中では、ちょっと…… でも、まあ、いいか……」
わたしもアイアンホースに合わせ、ギリギリ聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。市長公邸に到着するまで、しばらく時間がある。その時間を無為に過ごすことはあるまい。可能性としては、御者がスパイだったりして、思わぬところで墓穴を掘ることも考えられるけど、多分、聞こえていないだろう。
「端的に申し上げますと、状況は、こちらにとって、かなり不利なのです。多少挽回する程度では追いつくのは難しく、端的に言えば、逆転の妙手を発見できないことには勝利は困難かという状況でございまして……」
「妙手なら、あるわ。非常に簡単なことなんだけど……」
「と、おっしゃいますと……、そんなに簡単にいくのですか? さすが伯爵様ですが」
アイアンホースは、そう言いながら、ハテと首をひねった。
「簡単よ。例えば、候補者が何らかの事情によって死亡した場合、どうなると思う?」
「候補者死亡の場合、当選していた場合には当選は無効となり、次点の候補者が繰り上げ当選で、当選前なら、その候補者が立候補していなかったものなりますが、それが、え~と……、一体、どういう意味でしょうか?」
「つまり、ブライアン氏には、人為的・作為的な死亡事故に遭ってもらいましょう、ということ。ダイレクトに表現すれば、彼を亡き者に……」
すると、アイアンホースは、一瞬、目を大きく開け、
「なっ! なんですとぉー!! そんな馬鹿なぁ!!!」
と、大声を上げ、椅子から立ち上がった。馬車は、その(重量級のアイアンホースが体を動かしたことによる)衝撃のせいでガタンと揺れ、御者は「何事か」と、脅えるような目で後ろを向いた。すると、アイアンホースは、カッと憤怒の形相で御者をにらみつけ、
「バカヤロウ! こっちを見るんじゃねぇ!! このタワケがぁ!!!」
今日のアイアンホースは、いつもとは一味違う。もちろん、良い意味ではなくて、見ていて退屈しないということで。
でも、彼はすぐに我に返って、
「あっ、いや、これは、その…… なんでもないのです」
そして、アイアンホースは、「絶対にダメ」というように腕を「X」の字に交差させ、
「伯爵様、それだけは、ちょっと…… バイソン市は、法治国でございまして、いかに『事故』とは言っても、そのような手段は、やはりアンフェアということで、許されないのです」
歯切れの悪い返答だけど、ともあれ、暗殺はルール違反なのだろう。ということは、普通に選挙をして、アイアンホースの得票数がブライアンを上回るようにしなければならない。でも、そういうことなら……、やっぱり無理かも……




