陰謀渦巻くお葬式
ジュリアン・レイ・パターソンと名乗ったその親衛隊員は、年は20歳前後だろう、背が高く、ブロンドの髪と青い瞳の美男子。見た目、結構、好みのタイプだったりする。
わたしはパターソンを見上げ、
「よく調べたわね。感心感心」
「いえ、この付近の屋敷の使用人の噂話を立ち聞きしたり、下町の居酒屋に紛れ込んだり、方法は幾らでもありますから」
なるほど、情報収集には、日々の地道な努力が重要らしい。のみならず、もうひとつ重宝する情報源があるらしく、
「実は、このところ、ツンドラ候が屋敷に出入りするようになりました。いつも疲れた顔でやって来ては、『ウェルシー伯はいるか?』と。『残念ながら、今のところ国元におります』と答えると、その日の愚痴を聞かされるというパターンです。ついでなので、ツンドラ候をおだて上げて喋らせますと、『ここだけの話』として、少々危ない話も入ってくるようになりました」
パターソンはニヤリと笑った。あのツンドラ候のことだから、こういうことも不思議ではない(こんな口の軽い人が国家権力の中枢にいて大丈夫かという当然の疑問については、この際、考えないことにして)。
「しかし、カトリーナ様、お気をつけ下さい。ツンドラ候は現在、葬儀委員会委員ですが、引き続き次期皇帝選出委員会委員に選ばれる予定のようです。『誰か代わってくれるなら、ゲテモン屋のフルコース1年分を贈ってもいい』と、のたまっておりましたから、顔を合わせることがあれば、言動には十分に御注意を」
「ありがとう、いいことを聞かせてくれたわ」
ツンドラ候のことだから、「代わってくれるなら云々」は、きっと本気だ。以前、「帝国建国500年祭実行会」委員の代理を引き受けて、そのおかげもあって、(葬儀の原因となった)皇帝暗殺に成功したことがあるが、今回は遠慮させてもらおう。面倒だし、そもそも、ゲテモン屋のフルコースが1年分では命にかかわる。
屋敷の玄関先でのヒソヒソ話も終わり、わたしはとりあえず自分の部屋に荷物を置いた。そして、プチドラを抱き、こっそりと「開かずの間」を通って地下室に向かう。
地下室に入るや、
「まあ、カトリーナさん!」
クラウディアが感動的にわたしの両手を握りしめた。この前に会ってから、それほど長いというほど時間は経っていないはずだ。感情表現が大袈裟なのは性分だろうけど。
ガイウスは、紅茶をカップに注ぎながら、
「今回は皇帝の葬式に出席するためかね。儀礼的な公式行事は退屈だろうけど、水面下では、次期皇帝選出委員会に向けて、怪しげな動きが始まってるらしいよ。いろいろな意味を含めてだが、葬式の間も、一応、用心すべきかな」
ガイウスの話も、先刻のパターソンの話と同じようなものだった。少々誇張して言えば、「陰謀渦巻くお葬式」といったところだろうか。血が流れるわけではなかろうが、あまり安閑としてもいられないお葬式らしい。