「ブライアン詣で」
プチドラを抱いて事務所を出る際、入れ替わりに事務所に入ろうとする数人の男とすれ違った。彼らの歳は、中年以上老人未満といったところ。(歳のせいではないと思うけど)背中を丸くして、辺りをキョロキョロと見回し、わたしと目が合うと慌てて顔を伏せようとする。着ているものはそれなりに値が張りそうだけど、絵に描いたように挙動不審。男たちは、何か悪いことでもしてきたかのように、コソコソと事務所に入っていった。
「何者かしら。あれほどあからさまに怪しさ丸出しも珍しいわね。ブライアンの関係者とすれば、もしかして、白い羽根帽子の連中?」
「どうかな。この前に見た感じだと、連中って、もっと若そうだけど…… それよりも、『この町の経済界の重鎮が、何かの相談にやってきた』という可能性の方が、高そうな気がするよ」
言われてみれば、なるほど、そうかもしれない。彼らは、パトリシアが言ってたような、「アイアンホースを見放しつつあるバイソン市のお金持ちたち」なのだろう。今日はこっそり、「ブライアン詣で」ということか。
「行きましょう。いつまでも事務所の前にいても仕方がないわ」
お金持ちたちがブライアンとどんな話をしているか知らないが、現在のところは、わたしには関係のないことだ。わたしはプチドラを抱いて歩き出した。
それから、しばらくして、
「ここ、どこ?」
目の前には、小奇麗で清潔感のある、しかし見覚えのない町並みが続いていた。
「とりあえず、ブライアン氏の事務所から、10分程度、歩いてきた地点」
「それは分かるけどね…… わたしが道を歩くと、やっぱり、こうなる運命なのね」
つい勢いで、道案内もなしにブライアンの事務所を出てきてしまったけど、例によって迷子に。のみならず、今回は、行きも帰りも迷子というおまけ付き。
プチドラは、いつものことながら、あきれ顔でわたしを見上げ、
「どうする? 飛んで帰ろうか。闇雲に歩き回っても、時間が過ぎていくばかりだし」
プチドラも、当てのない彷徨につき合わされるのは迷惑らしい。騒ぎになるようなことはしたくないが、今まで自力で目的地までたどり着いた覚えはないし、決断するなら、なるべく早い方が……
でも、とりあえず一休みしようと、道端のベンチに腰掛けると、
「あら!?」
なんと、目の前を、10人ほどの白い羽根帽子の集団がものも言わず、風のように駆け抜けていった。「生け捕りにして拷問にかけよう」と思った瞬間には、既に、どこに行ってしまったのか、その姿は見えなくなっていた。
それからどうなったかというと…… その日の夜遅くになって、どうにか宿舎のホテルに戻ることができた。途中の冒険譚は、書き出したらきりがないので省略するとして、今回は、どうにか無事に戻れたという結論で、よしとしておこう……




