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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第5章 選挙参謀
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あいにくと不在中

 パークはしきりに恐縮している。そんなにかしこまらなくても構わないのだが。

「ちょっと教えてほしいんだけど、『名前だけは、かねがね』って、どういうこと?」

「実は、さるスジから、『とある伯爵様が、アイアンホース市長の招待で、帝都からはるばる、宝石の商談においでになった』という話が伝わってまいりまして……、え~と、今回の選挙関係の話なので、あまり詳しくお話するわけにいかないのですが、そういうことなので……」

 でも、それなら、「伺っている」のは「名前だけ」ではないことになるが……、ともあれ、言葉尻を捉えるような細かい話はさておき、

「つまり、わたしが市長に宝石を売りに来たことは、あなたたちも知っているのね」

「はい、承知しております」

 ならば話は早い。今のうちに、どうにかして、ブライアン氏と宝石の売買契約(彼が選挙で落選することを解除条件として)を締結しておけば、仮にアイアンホースが落選しても、安心。問題は、ブライアン氏が宝石に興味を示すかどうか。

「ブライアンさんと話がしたいんだけど、いいかしら?」

「はい、それは構いませんが、今、あいにくと、ブライアンが遊説に出かけておりまして、戻るまで、もうしばらくかかると思います。お待ちいただけるなら、戻り次第、手配しますが」

「そうして頂戴。それと、もうひとつ……」

 大切なことを忘れてはいけない。長期的な利益以上に、目先の満足が重要になることもある。

「悪いけど、昼食を用意してくれないかしら?」

「はっ、はい。大したものはありませんが、すぐにお持ちします」

 パークはドタバタと慌てて部屋を出た。


 わたしは、内心、ニヤリ。プチドラは、膝の上から、ジーッとわたしを見上げている。露骨だし、非礼だし、何よりも美しくない要求ということは、承知している。でも、選挙事務所としての性質上、弁当はあると思うし、余程理不尽な要求でなければ断ることはできないはずだ。

 しばらくすると、パークがサンドイッチや飲み物をバスケットに入れて持ってきた。事務所スタッフの昼食の残り物かもしれないが、この際なので、贅沢は言ってられない。

「お待たせしました。伯爵様のお口に合うかどうか……」

「ありがとう。それじゃ、ブライアンさんが戻ったら、教えてね」

 パークは一礼し、再び部屋を出た。

 サンドイッチは、意外にも美味。おなかが空いていたせいもあるだろう。ただ、それを割り引いても、合格点を付けられそうだ。プチドラもサンドイッチを口に入れ、「まあ、悪くはないね」とは言いながら、満足気。

 こうして、遅い昼食を終え、椅子の背にもたれてぼんやりと天井を見上げていると、しばらくして、部屋の外がガヤガヤと騒がしくなった。ブライアン氏が戻ってきたのだろう。気合を入れ直し、さあ、商売はこれから。

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