迷子のわたし
一体、ここはどこなのだろう…… 例によって、道に迷ってしまった。初めてのところで土地勘がないことは割り引いて考えるとしても、目的地までわずか300メートルばかりの一本道で迷子になるなんて、「あり得ない」と、我ながらあきれ返るばかり。
「困っちゃったわね。いつものことだけど、どうしようか」
「やっぱりね。こうなると思ったんだ。マスターの方向音痴は筋金入りだから」
「でも、いつものことだとすれば、いつものように、なんとかなるんじゃない?」
これまでも、迷子になっては、御都合主義的に誰かに助けてもらっていた。ゲーム用語で言えば、迷子が次のストーリー展開への「フラグ」のような役割を果していたので、今も、正直なところ、全然、不安はない。今回も、誰かが助けてくれるだろう。例えば、白い羽根帽子の集団が仕事を終えて帰ってくるところに出くわしたりして……
ところが、今回は、うまくいかなかった(というか、これが普通か)。行けども行けどもブライアンの選挙事務所は見えず、どんどん深みにはまり込んでいくような。誰かに道を尋ねようにも、小ざっぱりとした清潔な町並みにもかかわらず、人どおりはまったくと言っていいほど、ない。プチドラを抱いている両腕も、なんだかだるくなってきた。
プチドラはわたしを見上げ、
「マスター、大丈夫? 疲れてきたんじゃない?」
「大丈夫なわけ、ないでしょう。本当に、ブライアンのやつ、どこに隠れてるのかしら。見つけ出したら、即刻、打ち首にしてやる」
「そんな無茶な……」
文句を言っても、状況は一向によくならない。午前中に宿舎を出たから、時間的には、今はおやつ時くらいだろうか。昼食を食べ損なったので、(朝食が遅かったとはいえ)非常に不愉快。(例えばの話として)道行く人に八つ当たりしようにも、通行人はいない。まるで、この街路の人を寄せ付けない魔物が、わたしに嫌がらせをしているようだ。
「ダメだね。マスター、最後の手段で、空を飛んで帰ろうか?」
「そうね、いよいよという時には頼むわ。でも、ちょっと休憩」
わたしは「ふう」と、道端の地べたにしゃがみこんだ。行儀が悪いのは分かっているが、しょうがない。
プチドラが隻眼の黒龍モードになれば、ホテルまで、時間はかからないだろう。あまり大騒ぎになりそうなことはしたくないが、このまま町をさまよっていると、そのうち飢え死にしそうだ。
そして、いよいよ最後の手段を行使しようと決断しかけた、その時……
「あの~、どうしました?」
顔を上げると、(平凡な)若い兄ちゃんが立っていた。買い物の帰りなのか、両手で大きな袋を抱えている。
「もう、登場が遅いじゃないの! 待ちくたびれたわ!!」
兄ちゃんは、わけが分からないのだろう(当たり前だ)、「ハア?」と首をひねっていた。




