食事会が終わって
食事会は、「会」とは言いながら、わたしとパトリシアの二人だけで淡々と進んだ。「カレ」の正体を聞き出そうとしたが、この点だけは思いのほかガードが固く、手がかりさえ与えてくれない。常識的には、市長公邸から出てきた(と思われる)白い羽根帽子の男が最有力候補ということになろうか。でも、それも推測の域を出ない。
「来てくれて、どうもありがとう。楽しかったわ」
デザートを食べ終えると、パトリシアが言った。でも、本当に楽しかったかどうかは別問題で、一種の社交辞令だろう。なお、アイアンホースは、結局、最後まで姿を見せなかった。選挙戦で忙しくて、ゆっくりと食事をするヒマもないのだろう。その勝負の行方には、なかなか厳しそうなものがあるだけに、なおさらのこと。
わたしはパトリシアに手を差し延べ、
「御馳走になったわ。これで、あなたとわたしは『お友達』になったと考えていいのかしら」
「そうね。取り立てて用がなくても、来てくれれば歓迎するわ」
パトリシアとわたしは、ややソフトな握手を交わした。とはいえ、わたしはもちろんだけど、パトリシアも、本気で友達と思っているわけではないと思う。
市長公邸の正面玄関には既に馬車が来ており(段取りのいいことに)、その傍らでは、ジンクが背筋をピンと伸ばして立っていた。
「お待ちしておりました。お食事会は、いかがでございましたか」
「ありがとう。楽しかったわ」
と、わたしもパトリシアのマネをして、社交辞令。
ジンクは馬車の扉を開け、
「お乗り下さい。宿舎までお送りします」
わたしがプチドラを抱いて馬車に乗ると、ジンクも「やれやれ」というような表情を浮かべ、同様に、馬車に乗り込んだ。わたしを宿舎まで送るのが、この日最後の仕事なのだろう。本当に、ご苦労様。
馬車は、市長公邸を出ると、夜道をやや速度を上げながら進んで行く。パトリシアと食事をしているうちに、夜も結構、遅くなってしまった。ジンクにとっても馬車を操る御者にとっても、いい迷惑だろう。
「ジンクさん、今度の選挙のことなのですが……」
「ご心配には及びません。アイアンホース市長が負けるはずはありませんから」
表面上、ジンクはあくまでも強気(というか、弱みを見せようとしない)。でも、いくら強気でも、現実に選挙で負けちゃったら、わたしにとっても話にならない。仮に、その前に、アイアンホースが(現)市長の資格で契約を締結しても、新市長(ブライアン氏)が契約を引き継ぐかどうか分からないし、後から「債務不履行だ」とか「そもそも契約は成立していない」とか言って揉めるのは面倒だ。
「いかがなされましたかな? 先ほどから、黙り込んで、何か考えておいでですか?」
「いえ、別に……」
とりあえず、明日にでも、ブライアン氏の陣営を偵察に行こう。何か良案が浮かぶかもしれない。




