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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第4章 「アイアンホース~左から5匹目」
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市長公邸前にて

 ジンクはわたしの方に向き直り、

「いささか唐突ですが、市長の仰せですので、馬車の用意をいたします。しばらくお待ちを」

 ジンクが市の職員に指示を送ると、職員は、駆け足で階段を下りていった。この際、わたしの都合は関係ないらしい。宿に戻ってもすることはないから、食事くらい構わないが、最初にわたしの予定を確認してもよさそうなものだ。

 でも、それはさておき、

「ジンクさん、少し言いにくいのですが…… その、顔が、すごい、いえ、失礼……」

「ああ、この青あざのことですな。どうということはないのです。何か硬いものに激突しただけのことです」

 ジンクは事もなげに言った。その硬いものが何かということ点に関しては、おそらくは、アイアンホースの怒りのパンチを顔面で受け止めたように推測される。

 しばらくすると、市の職員がバタバタと大急ぎで階段を駆け上がってきて、

「お待たせしました。馬車の用意ができました。こちらへどうぞ」


 階段を下りると、市庁舎の正面玄関に馬車が停まっていた。馬車に乗り、プチドラを抱いて椅子に腰掛けると、ジンクも同じように、「どっこいしょ」と馬車に乗り込んできた。

 ドアが閉まり、馬車はゆっくりと動き出す。すると、ジンクは疲れたように、「ふぅ~」とため息をついた。

「ジンクさん、なんだか、この前より体型が少しスリムになったように見えますが?」

「分かりますか。このところ立て込んでおりましてね。特に、選挙……、いや、説明の必要はないでしょうな」

 理由はよく分からないが、選挙戦はアイアンホースに不利な状況らしい(30年近くも市長を務め、いい加減、飽きられてきたということだろうか)。ゆえに、いろいろと気苦労が絶えないのだろう。こういう場合は、スバリ言ってみるに限る。

「今回の選挙は、どんな按配でしょうか。万が一、負けるようなことが……」

「いや、それだけは絶対にありません」

 わたしの言葉を遮るようにして、ジンクは言った。でも、その声は、どこか力強さに欠けるように聞こえる。強気の姿勢を崩さなくても、内心では戦々恐々ではないか。


 馬車は清潔な市街を抜け、市長公邸に向けて、ゆったりとした速度で進む。既に日は暮れ、人通りは、まったくと言っていいほど、ない。夜間外出許可制度の効果だろう。しかし、馬車が公邸付近に差し掛かかると、プチドラがにわかに耳をぴんと立て、窓の方を向いて、うなり声を上げた。

 何か面白いものがあるのだろうか。ちらりと窓越しに外に目を遣ると、白い羽根帽子(今回は一人だけ)のような白っぽい人影が、市長公邸の内側から壁を乗り越えて通りに降り立ち、風のように走り去っていくのが見えた。白い羽根帽子集団は、対立候補のブライアン氏とつながっているはず。もしかして、裏の裏ではアイアンホースとつながっているという二重スパイみたいな関係だろうか?

 でも、まさかね……

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