情報機関らしく
今回は、いつもの風呂敷包みに伝説のエルブンボウのほか、葬式用に黒っぽい礼装(つまり喪服)を詰め、いつもと同じコースを通って帝都に飛んだ。宮殿の周囲に建てられた4本の尖塔や魔法アカデミーの塔は、例によって遠くからでもよく見えるけれど、何度も目にしていると、感動が薄い。
「退屈そうだね、マスター」
「分かる?」
わたしは隻眼の黒龍の背中で思わず、大あくび。でも、隻眼の黒龍自身も退屈そうだ。次回から、手持ち無沙汰を紛らわすため、何か方法を考えよう。簡単によい知恵が浮かぶとは思えないけど……
そうこうしているうちに、大河の畔に広がる帝都の町並みが目に入ってきた。
隻眼の黒龍は、徐々に高度を下げ、屋敷の中庭に降り立った。屋敷の中からは、駐在武官として派遣された親衛隊員が次々に飛び出してきたが、わたしの姿を認めると、一列に整列。そして、そのうちの一人が(責任者だろう)、一歩、前に出て、
「お待ちしておりました、カトリーナ様!」
「えっ? わたしを待ってた??」
「はい、皇帝陛下が崩御され、近々、葬儀が行われるとの公式発表がありました。全諸侯出席とのことですので、カトリーナ様も出席されるであろうと考え、こちらでも準備を進めておりました」
「あら、知ってたのね。説明する手間が省けたわ」
「帝国政府が公に布告しましたから。それに、情報収集の類は、我々駐在武官としては当然の業務です。実は、その点で、少し気がかりなことがありまして……」
その親衛隊員は、さらにもう一歩近づき、わたしの耳元でささやく。
「本当は皇帝陛下がかなり前に崩御されていたことは、帝都では公然の秘密です。にもかかわらず、今になって葬儀を行うということは、次期皇帝選出への目鼻がついたことを意味しているのですが……」
「常識的に考えれば、そうよね。それで?」
「この葬儀が終われば、帝国宰相を中心として、「次期皇帝選出委員会」なるものが設けられるようです。つまり、現在の皇族方の中から皇帝陛下としてふさわしい御方がどなたかを議論するというわけですが、これがまた、ハッキリ言っちゃいますと、いかがわしい限りで……」
話によれば、ドラゴニア候への「仕置き」を済ませ、今や自分の権勢に逆らう者がいなくなった帝国宰相が、自分に都合のよい皇帝を即位させるための「手続」として設けるのが次期皇帝選出委員会らしい。ただし、見立てとしては、アート公、ウェストゲート公、サムストック公はじめ、内心では帝国宰相のことをよく思っていない人が委員の大多数を占めると予想されることから、なかなか簡単に次期皇帝が決まるとは思えないとのこと。
「へえ~、なかなかやるわね。なんとなく情報機関らしくなってきたわ。あなた、お名前は?」
「ジュリアン・レイ・パターソンです」