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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第3章 市長アイアンホース
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落選の理由

「お父さんが落選? 一体、どうして??」

 選挙はまだまだ先のはずだけれど、パトリシアには結果が見通せているのだろうか。

「決まってるでしょう。今まで、悪が栄えたためしはなくてよ」

 パトリシアは言った。わけの分からない理屈だけど、その態度から察すると、彼女はアイアンホースの落選を確信しているようだ。

 でも、今日の感じからすれば、この町ではアイアンホースが絶対的な支配者として君臨しているように見える。その絶対的な支配者が、本当に落選するのだろうか。

「父は必ず負けます。市政を私物化して民衆を苦しめるような人が、市長でいられるはずがないわ」

 パトリシアは、父親アイアンホースの落選について、微塵も疑いを抱いていない様子。でも、その根拠はなんなのか、今まで話を聞いた限りでは、さっぱり見えてこない。

「だから、そんな抽象的な話ではなくって、もっと具体的に……」

「父の負けは明らかよ。子供でも分かるわ」

 だから、「子供でも分かる」という、その根拠をききたいのだが……

 そもそも、パトリシアの言うようにアイアンホースの負けが明らかなら、今日のパーティーに、こんなに人が集まるはずがないではないか(負け馬に賭ける人はいないだろう)。

 わたしが更に質問を続けると、パトリシアは、ついには(恐らくは本気で)怒り出し、

「落選するに決まってる! だから落選するの!! カレの言うことに間違いはないわ!!!」

「あら、そうなの……」

 言っていることはハチャメチャだけど、とりあえず、彼女の言うところの「カレ」の受け売りらしいことは分かった。家庭の事情は知らない(知りたくもない)けど、娘がこれでは、アイアンホース市長も苦労が絶えないだろう。まことに、「不幸な家庭はそれぞれの仕方で不幸である」ということか。


 結局、パーティーが終わったのは、夜遅くだった。出席者のほとんどが引き揚げていったが、よく見ると、料理にはほとんど手が付けられていない。プチドラがそれをじっと見つめながらよだれを垂らしていたので、

「いいわ。どうせ、残ったら捨てちゃうんだから」

「うん」

 プチドラは、料理が盛られた皿に体ごと飛び込んだ。行儀を云々する以前の問題だけど、構わないだろう。このパーティーの運営自体、客を遇する理に適っているとは思えないから。

「おやおや、これはまた、ダイナミックなことでございますな」

 振り返ると、いつの間に現れたのか、ジンクがわたしのすぐ後ろで苦笑していた。

「伯爵様、宿舎までお送りいたします」

 ジンクは極めて事務的に頭を下げた。

「そう、それじゃ、お願いしようかしら」

 わたしは、プチドラを料理から引き剥がすように抱き上げ、ジンクに導かれて宿舎までの帰途についた。

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