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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第3章 市長アイアンホース
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意外な爆弾発言

「娘さんですか。なるほど」

 わたしはホッとした気分になった。アイアンホースは頑張って若作りしているが、これまで30年近くの間、市長を務めてきたという話だから、どう贔屓目に見ても初老の域にはさしかかっているはず。若い妻ということであれば犯罪めいた話になりそうだけど、娘なら、話は分からなくもない。

「実は、3人目の妻との間に生まれた子でございまして、いやぁ、ははは」

 アイアンホースは恥ずかしそうに頭をかいた。ファーストレディが3人目の妻との間の娘とは、いわゆるひとつの家庭の事情というやつだろうか。

「パトリシア、ぼ~っと突っ立っていないで、さあ、さあ」

 すると、娘は無言で腰をかがめ、形式どおりの挨拶をした。見たところ、わたしはあまり好感を持たれていないらしい。

「いやあ、甘やかしすぎたかもしれませんな。困ったものです」

 アイアンホースはハンカチで顔を拭き、「困ったものです」を何度も繰り返しながら、パトリシアを残し、他の出席者のところへ挨拶に向かった。


 アイアンホースの姿が見えなくなると、パトリシアはとげとげしい口調になって、

「あなたが伯爵様なのね」

「そうよ。でも、それが何か?」

「この町には商談で来たのでしょう」

 商談のことを知っているのはアイアンホースとジンクだけだと思っていたけど、アイアンホースが何かの折に娘に話したのだろうか。

 わたしが首をかしげていると、パトリシアはニヤリとして、

「でも、損をしたくなければ、この話は受けないほうがいいわ」

「損をする? どういうこと??」

 すると、パトリシアはわたしの手を引き、大広間を出た。そして、大胆にも市庁舎の中庭までわたしを導くと、油断なく周囲を見回し、

「月がきれいね。ここなら誰にも盗み聞きされる心配はないわ」

 空には真ん丸の月が浮かんでいる。色白のパトリシアの顔が月明かりに照らされ、いわゆる幻想的な光景。

「パトリシアさん、さっきの『損をする』って、どういうこと?」

「ええ、あなたは父と宝石の売買契約を結ぼうとしているらしいけど、止めた方がいいということよ」

 話を聞いたわたしは、ちょっぴり唖然。子が親の商売(取引)の足を引っ張るなんて、普通、あり得ない話だろう。

「だから、なぜ『止めた方がいい』のか、その理由を聞きたいんだけど」

「父は次の選挙で必ず落選するわ。市長が替われば取引はストップ、そうでしょう。だから、今のうちに引き揚げるのが得策よ」

 この娘は…… 意外なところで意外な相手から爆弾発言を聞かされてしまった。

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