「激励の言葉」
辺りはすっかり暗くなり、市長公邸の大広間でパーティーが始まった。一応、立食形式で、形ばかりの飲み物や料理が用意されているが、それを当てにしている出席者はいない。のみならず、人がギュウギュウに詰め込まれ、移動するにもひと苦労だ。
大広間には即席の演壇が設けられ、天井からは、大きく「ルイス・マンフレッド・アイアンホースを励ます会」と書かれたボードがぶら下がっている。演壇には、アイアンホースともうひとり、誰だか知らないが非常に若い女(見た目は中学生か高校生くらい)が立っていた。
「え~、本日は、皆様方におかれましては……(云々)……」
最初はやはり型どおりに、アイアンホースの挨拶だった。丁寧ではあるが、意味のない言葉の羅列が続く。
その挨拶が終わると、誰だか知らないが(どこぞの要人だろう)、アイアンホース以上にでっぷりと太った男が演壇に上がり、応援演説、
「あ~、本日、この会場にお集まりになっている方々は運がいい。なんといっても、アイアンホース市長の姿を間近で拝めるのですからな……(云々)……」
そして、この男のあとにも、次から次へと、政界や財界の大物による激励演説あるいは応援演説が続く。
「退屈だね」
プチドラは、露骨にイヤな顔をして言った。
「しょうがないわ。それに、わたしが『激励の言葉』を喋るまでは、帰れないし」
ジンクにもらった資料によれば、わたしの順番は最後にセットされていた。取りを務めろということか、あるいは、飛び入りだから最後に回されただけか。
1時間以上待たされて(というか、他の人の激励又は応援の演説を聞かされて)、ようやく順番が回ってきた。わたしはうんざりとした顔で演壇に立ち、嫌悪感を隠すことなく(むしろ丸出しにして)、機械的に、用意された原稿を読み上げた。この程度の不満の表明なら、道徳的権利としての抵抗権の範囲内だろう。
ところが、アイアンホースは笑みを絶やすことなく、「乾杯」(発声は、バイソン市の市議会議長)が終わるとすぐにわたしのところに挨拶に来て、
「伯爵様、このたびは、無理を聞き届けていただき、誠にありがとうございました。」
「別にどうということはないわ。今回限りにしてほしいけどね」
「かしこまりましてございます。何度も伯爵様に御面倒をおかけするような、畏れ多いことはございません」
アイアンホースは頭が床に着くほどに腰を曲げた。その後ろでは、演壇でアイアンホースの横に立っていた若い女が、あからさまに軽蔑するような目で彼を見下ろしている。この女性は、一体、誰だろう。
「アイアンホース市長、ところで、その子は?」
「ああ、これは私の娘でございます。いわゆるファーストレディでございますが、伯爵様と同年代ですので、願わくば、公邸にいらっしゃった折には話し相手になっていただければ、身に余る光栄に存じます」




