勅使来たる
かなり前の話なので忘れかけていたけど、皇帝暗殺の犯人は、わたし。なんとなく思いついたので、ガイウスたち、ダーク・エルフの力を借りながら、つい、やっちゃった、みたいな。その後、公式には、「皇帝陛下は病気療養中」とだけ発表され、帝都では住民の間でも様々な憶測が飛び交っていたようだ。でも、ポット大臣には、公式発表しか伝わっていなかったらしい。
「話は分かったわ。それで、何が大変なの?」
「ですから、とにかく大変なんです。皇帝陛下が崩御されたということは、帝都でその葬儀が大々的に催されるわけでして、カトリーナ様にも、当然、出席する義務があるのですが、とにかく、今、その件で勅使がおいでになっているのです」
「勅使というと、時々やってくる…… どうしても、わたしが出なければならないの? 話を聞くだけなら、何もわたしでなくたっていいでしょう」
「いいえ、いけません。勅使をお迎えするのも領主としての務めですから」
こういう融通の利かないところが、いかにも官僚的な……
ともあれ、わたしはポット大臣に急き立てられ、礼装に着替えて、勅使の待つ(大臣が、急遽、それらしく様式を整えた)大広間に向かった。
大広間では、プレートメールの上に赤いマントを羽織り、顔のある太陽が描かれた旗を持った勅使が一人、直室不動の姿勢でわたしを待っていた。
「お待たせいたしました。このたびは誠に……」
言いかけたところで、ふと口をつぐんだ。うっかり「御愁傷様」などと口をすべらせたりしたら、さすがにマズイだろう。
勅使は書簡を取り出すと、
「あまねく四海を治め、その徳は天下万民を慰撫し、その威風は……」
と、非常によく響く声で、読み上げを始めた。すなわち、最初のうちは、皇帝陛下がいかにすごかったかを、歯の浮くような美辞麗句で装飾しながら、長々と述べ、そのうち、
「……しかるに、太陽のごとくに世を照らされた皇帝陛下は、このたび……」
すると、ここで突然、ポット大臣が「おお」と声を詰まらせて嗚咽を始めた。これがしきたりなのだろう。わたしも、形だけ、むせび泣くフリをする。この辺りから、ようやく本題というか、「皇帝陛下が崩御された」というひと言を、これまた過度に形容詞を連ねながら、延々と述べる。
勅使の話を要約すると、「皇帝陛下が崩御されたので、帝国宰相を委員長とする葬儀委員会が中心となって、帝都において全諸侯が出席する葬式を大々的に行うから、おまえも出て来い」という、ただそれだけのことのようだ。
口上が終わると、勅使はそそくさと立ち去った。おそらくは、皇帝崩御を順繰りに伝えているのだろう。グリフィンに乗って次に伝える先は、隣のミスティアだろうか。ともあれ、お役目ご苦労様。
「帝国宰相が葬儀委員長か。しょうがないわね……」
というわけで、またまた(これで何度目だか)帝都に向かうこととなった。