ホンモノの「パーティー」
ジンクに案内されたのは、市の中心部、いかにも高級そうなホテル。一般庶民には、一生、縁のないところだろう。わたしがフロントで受付を済ませると、
「夕刻に馬車を出して迎えに参上しますので、それまでごゆっくり、おくつろぎ下さい。」
ジンクは事務的な口調で言うと、さっさと引き揚げていった。
わたしが通されたのは、ホテルの最上階の広々とした部屋。市庁舎ほど高くはないが、眺めはまずまず。でも、気分はあまりよろしくなく、
「夕方からパーティーか……」
うっかりと、二つ返事で出席を引き受けてしまったけど、選挙前に一方の当事者が開催するパーティーだから、何が待ってるかは容易に想像がつく。今度こそホンモノ(いわゆる「資金集め」)の「パーティー」だろう。
「マスター、さっきから、なんだか、顔つきからして冴えない感じだけど」
「言わなくても分かるでしょ」
するとプチドラは、分かったというふうに、コクリとうなずいた。
思わず悪口の一つや二つ、言ってみたい気分だけど、余計なことは言わないほうがよさそうだ。アイアンホースが用意した宿所だから、念のため始終監視されているものと考えて、注意を怠るべきではないだろう。
そうこうしているうちに、あっという間に日は傾き、辺りは薄暗くなった。イヤなことほど早くやって来るものだ。やがて、ドアをノックする音が聞こえ、
「伯爵様、お待たせしました。これより公邸まで御案内いたします」
お約束のように、ジンクが迎えに来て、うやうやしく頭を下げた。仕方がないので、わたしは適当に(自分でも本当にいい加減だと思う)ホテルで借りたパーティー用のドレスに着替えてプチドラを抱き、用意された馬車に乗った。
馬車が動き出すと、ジンクはおもむろにペーパーを示し、
「これは、今晩催される『ルイス・マンフレッド・アイアンホースを励ます会』の式次第でして、目を通していただければ、御理解いただけると思います。なお、要点をかいつまんで申し上げますと、本日のパーティーは、基本的にはアイアンホース市長の選挙に向けての壮行会でございまして……」
思っていたとおり、早い話、選挙資金集めのパーティーだった。でも、わたし的には、一銭たりともくれてやるつもりはない。そんなことを考えていると、ジンクは別のペーパーを取り出し、
「伯爵様、突然このようなことを申し上げて申し訳ないのですが、御出席いただくからには、ぜひとも、これはお願いと申しますか……」
ペーパーには文字がギッシリと詰まっていた。
「これ、なんなの?」
「伯爵様にも、ひと言、アイアンホースへの激励の言葉を賜りたいと、こういうわけでございます」
早い話、「激励の言葉」が書かれているところの、そのペーパーを、読み上げてほしいということだろう。