ブヨブヨした両手で
わたしはアイアンホースに勧められ、あまり気乗りはしないけれど、(玉座と勘違いしたみたいな)けばけばしい椅子に腰掛けた。
その時、入り口のドアが開き、「失礼いたします」と、初老の男が部屋に入ってきた。それを見たアイアンホースは、
「おお、ジンク、来たか。あとは頼むぞ」
と、その男の肩をポンとたたいて、わたしの方に向き直り、
「伯爵様、誠に申し訳ないのですが、私もこのところは多忙でございまして、直接お話をする時間がないのです。そこで、副市長で私の秘書も務めております、この、ダニエル・P・ジンクと具体的な話を詰めていただければと思うのですが、いかがでしょうか。有能で非常にキチッとした、つまり間違いのない男でございますが」
すると、ジンクと呼ばれた初老の男は、無言で頭を下げた。見た感じ、気難しくて融通が利かなさそうだ。でも、アイアンホースが選挙で忙しいなら、仕方がない。副市長で秘書兼務ということだから、それなりに仕事もできるだろう。「OK」の旨を伝えると、アイアンホースはホッとしたように、
「恐れ入ります。これで私は選挙運動……、いや、その、何ですな、そのことはともかく、伯爵様、宿所などは、既に決めておられるのでしょうか」
「いえ、まだだけど」
「それでしたら、私どもの方で手配した宿がありますので、詳細はジンクにお尋ね下さい。それと、もうひとつ、今晩、市長公邸でパーティーを催すことになっておるのです。よろしければ、伯爵様にも、ぜひ、御出席いただければと思うのですが、いかがでございましょうか」
「パーティーに出席? いいわよ」
「おお! それはありがたいことで!!」
アイアンホースは、いきなりブヨブヨした両手を差し出し、わたしの両手を握りしめた。
突然のアクシデント! わたしは、思わず「ギャッ」と悲鳴を上げるところだった。とにかくキモイ。アイアンホースはわたしの手を握ったまま何度も繰り返し頭を下げ、ようやく手を離すと、上機嫌で市長室を出た。
わたしが青白い顔をこわばらせていると(アイアンホースとの握手は、ほとんど拷問に近い)、
「伯爵様、よろしゅうございますか?」
ダニエル・P・ジンクは、資料を示しながら、バイソン市側の要望について説明を始めた。でも、今は、そんなことはどうでもいい。とにかく早く手を洗いたい。
一方、ジンクは、話がわたしの耳に入っていないのを察したのか、
「伯爵様は、お疲れのようですな。いかがでございましょう。本日は、顔合わせということで、具体的な話は、この次ということでは?」
「是非、そうして頂戴」
「承知いたしました。では、宿所まで御案内いたします」
ジンクは再び深々と頭を下げた。




