白い羽根帽子
公園には、噴水、ベンチ、花壇等、ひととおりのものが揃っていた。やはり手入れや清掃がキッチリと行われているようで、ゴミは落ちていない。でも、人影はまばら。公園を訪れる人は少ないようだ。
「きれいな公園ですね。でも、よく利用されているとは……」
「う~む、いつもはもっと人がいるのですがね。これはおかしいな、どうしたんだろう…… ねえ、おかしいですよね」
アイアンホースは、逆に、問いかけるように言った。でも、いつもの様子など知らないのだから、「おかしい」かどうか、わたしに分かるはずがない。アイアンホースは「はて」と腕を組み、不思議そうに首をひねっている。
やがて、馬車は、公園の中心部にある広場に差し掛かかった。どういうわけか、広場には人々が集まっており、その人々を前にして即席の演壇が設けられていた。
「ややっ! なんじゃ、あれは!!」
アイアンホースは、ギョッとした顔で馬車の窓を開け、身を乗り出した。
「市民の皆さん! 今こそ起つ時です!! みんなの力で、市政を変えましょう!!!」」
突然、男が演壇に駆け上がり、演説を始めた。その男は、白い衣服の上に白いマントをなびかせ、白い羽根帽子に白いアイマスクという非常にふざけた格好で、派手な身振り手振りを交え、聴衆をアジっている。
しかも、白い羽根帽子は、よく見ると、その男だけではなかった。同じ格好をした連中が10人程度で演壇を囲み、時折、「そうだ、そうだ」などと、相の手を入れている(一般聴衆は、更にその周囲に群がっている)。演壇に登っているのは、白い羽根帽子集団の代表なのだろう。ちなみに、話の内容は、「現職のアイアンホースは市政を私物化して汚職にまみれた大悪人なので、次の選挙では、絶対に当選させてはならない」ということ。
「誰があんな演説を許可したんだ! 違法だ!! 許されないぞ!!!」
アイアンホースは顔を真っ赤にして、声を上げた。先導する2名の鎧武者は、「御大」あるいは「親分」の不興を察したのか、人々に向かって馬を走らせながら剣を抜き、
「この集会は違法と判断された! 速やかに解散せよ!! 解散せよ!!!」
しかし、演壇の上にいた白い羽根帽子の男は、ひるむことなく、
「皆さん! このような横暴は、けっして許されない!! 投票日に思い知らせてやりましょう!!!」
そして、白い羽根帽子集団は、一目散に逃げ出した。鎧武者は彼らを追おうとしたが、広場に群がっていた人々が邪魔になって、思うに任せない。
アイアンホースは馬車の中でドスンと腰を下ろした。そして、苦々しい表情を浮かべ、
「まったく、いまいましいやつらだ。わしが今までどんな思いで仕事をしてきたか、分かってるのか!」
一体、なんなんだ? 毎度のことだけど、何やら雲行きが怪しそうな予感……