バイソン市の街並
案内された先には、プレートメールに身を固め騎馬に乗った鎧武者が4人、そして、その中心には、豪華な装飾を施された馬車が1台停まっていた。わたしの足元から馬車の入り口までは、真っ直ぐに、(即席の)赤い絨毯が敷かれ、絨毯の両脇には衛兵が整列している。
やがて、馬車のドアが開き、でっぷりと太った男、すなわちルイス・マンフレッド・アイアンホース市長が姿を現した。市長のコミカルな外見にもかかわらず、衛兵はビシッと姿勢を正し、わたしを案内してきた貧相な中年の男は頭が地につくほどに腰を曲げた。余裕があるのはわたしだけのようで、辺りの空気は、ピンと張り詰めている。
アイアンホースは、太った体を揺らしながら、赤絨毯の上をゆっくりと歩く。そして、わたしの前で、一度、深々と頭を下げてから、右手で馬車を示し、
「よくぞおいでくださいました、カトリーナ・エマ・エリザベス・ブラッドウッド伯爵様、まずは市庁舎まで御案内いたします。どうぞこちらへ」
馬車に乗れということだろう。わたしはアイアンホース言われるまま、赤絨毯の上を歩き、馬車に乗る。ドアが閉められると、前方の鎧武者が先導、後方の鎧武者が後衛となって、馬車はゆっくりと動き出した。
「いやぁ、近々おいでになるとは聞いておりましたが、まさか今日とは思いませんでした。衛兵どもには、行き届かない点などがあったかと思いますが、彼らに代わってお詫び申し上げます」
アイアンホースに「近々訪問する」旨の連絡をした覚えはない。パターソンが気を利かせ、事前に早馬を走らせるなどして伝えてくれたのだろう。
馬車は、城門を発つと、やがて、小ぎれいな市街地に入っていく。道には石畳が敷き詰められていて、塵ひとつ落ちていないと言うと言い過ぎだけど、そう言いたくなるくらいに清掃が行き届いている。道行く人はパリッとした服装に身を包んでいて、酔っ払いや浮浪者の類は一人も見当たらない。
「なんと言いますか、清潔感のある町ですね」
「そう言ってもらえると光栄ですな。実は、かなり以前から、町の美化運動に取り組んでおりました。その効果がようやく現れてきたのではないかと、恥ずかしながら、自画自賛したいような心境でございますよ」
アイアンホースは、脂ぎった顔をテカテカと光らせ、ニッコリと微笑んだ(キモイだけだっつーの……)。でも、キモイのは、「生身の」アイアンホースだけではなかった。よく見ると、通りのあちこちに、アイアンホースの銅像が建てられている。「このキモイのは、なんですか」と、尋ねるわけにいかないので、黙っていたけど。
そのうちに、馬車は通りを抜け、大きな公園の前に差し掛かった。
「近道していきましょう」
と、アイアンホース。最初から予定のコースだったのだろう、4人の鎧武者と馬車は向きを変え、ゆっくりと公園の中へと進んでいった。