城門の前で
隻眼の黒龍の背中から地上に降りると、
「おまえたち、何者だ!」
いきなり、若い男の声が聞こえた。周囲を見回すと、今までどこに隠れていたのか、武装した10人ばかりの兵士が、わたしと隻眼の黒龍を包囲している。
「怪しいヤツ! 神妙に御縄を頂戴せよ!!」
隊長だろうか、若い男が槍を構え、威勢よく叫ぶ。でも、よく見ると、恐怖に目を見開き、槍を持つ手もブルブルと震えている。内心では恐ろしくて仕方がないようだ。ドラゴンが相手だから、それも自然な反応だろう。
わたしは何も言わず、その男を真っ直ぐににらんだ。すると、男は何歩か後ずさり、口をガクガクさせて、今にも泣き出しそうな声で、
「お……大人しく言うことを…… たっ……たのむ! たのむから!!」
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。そんなに恐ろしいなら、職務などほっぽり出して、さっさと逃げ出せばよさそうなものだ。
その時、隻眼の黒龍が、後ろから顔を近づけ、
「マスター、壁の上を見て。監視員かな、二人くらい。分かる?」
ちらりと壁を見上げると、隻眼の黒龍の言うとおり、武装した二人組が、顔だけを出して、恐る恐るこちらを見下ろしている。
「この兵隊さんたちの上官かな。この人たち、上官に監視されてるから、逃げたくても逃げられないんだよ」
なるほど、逃亡が明らかになれば、後に軍法会議にかけられて死刑ということだろう。なんだか、この兵隊たちが哀れに思えてきた。
わたしは風呂敷包みからアイアンホースの招待状を取り出し、
「あなたたちは、ひどい勘違いをしているわ。わたしは、アイアンホース市長に招かれたのよ。客人に対して武器を向けるのが、この町の作法なの?」
「ええっ!? お客様!!!」
隊長らしい若い男は真っ青になった。男の目の前に招待状を示すと、男は「ヒィー!!!」と悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。そして、地面に頭をすりつけ、
「お許し下さい! 市長様のお客様とは露知らず、とんだご無礼を!!」
他の兵士たちも、同様に、武器を放り出し、頭を地面にこすりつけている。彼らの不手際について、わたしからアイアンホースにひと言でも苦情を言えば、彼らに何らかのペナルティが課せられるのだろうか。もっとも、そんな馬鹿馬鹿しいことはしないけど……
「もういいから、市長さんに取り次いでくれないかしら。こんなところで時間をつぶしてたって、仕方ないわ」
「分かりましてございます! しばらくお待ちを!!」
男は哀れっぽい声を上げて立ち上がり、壁の上を見上げると、何やら不思議なダンスを踊った。そのジェスチャーが合図なのだろう、巨大な城門が、ゆっくりと開いた。