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ザ☆旅行記Ⅷ 愚劣かつ下劣な話  作者: 小宮登志子
第2章 バイソン市への招待
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出先機関にて

 豪華な置物や絵画で飾られた廊下を抜け、わたしたちは、応接スペースに通された。そこでも値が張りそうな絨毯やテーブルやソファその他諸々、まるでバイソン市の経済力を見せつけるかのようだ。わたしたちがソファに腰を下ろすと、アイアンホースは頭を下げ、テーブルに顔をこすりつけるようにして、

「よくぞいらっしゃいました。身に余る光栄にございます」

 テーブルには、アイアンホースの脂のあとがクッキリと残っている。

 メイドがテーブルにティーカップを並べ、紅茶を注ぎ込むと、

「これは、南方から取り寄せました最高級の紅茶でございまして、さあ、どうぞどうぞ」

「ありがとう。いただくわ」

 わたしはティーカップを口に運んだ。「最高級」というだけあって、味も香りも、ガイウスやクラウディアと地下室で飲むものよりよさそうだ。でも、今日は紅茶を飲みに来たわけじゃない。


「ところで、アイアンホース、商談って、具体的にはどういうこと?」

「はい、それはですね、そちらで産出される宝石を直接取引できないかということなのですが……」

 アイアンホースは身を乗り出し、説明を始めた(あまり顔を近づけないでほしい)。それによれば、これまでのところ、バイソン市はマーチャント商会を通じてウェルシーの宝石を購入してきたが、運送費や何やらでバカ高い中間マージンを取られるので、今後は、ウェルシーと直接取引をすることにしたいとのこと。

「いやあ、どこを探しても、ウェルシーほど高品質な宝石はありませんのでな。マーチャント商会が提示する価格を呑まなければ仕方がないのですよ」

 アイアンホースは薄くなった頭を掻いた。「五色の牛」同盟の域内で産出しないものは、当然ながら輸入せざるを得ない。アーサー・ドーン及びG&Pブラザーズ株式会社の営業エリアは帝国の西部に限られており、バイソン市の場合、マーチャント商会の隊商を通じて宝石を購入することになる。宝石の価格は、この前に(わたしの思うところの適正価格に)引き上げたところだけど、マーチャント商会も、その分を値上げしたのだろう。

「伯爵様はマーチャント商会の傭兵部隊を退け、要求を認めさせたというふうにうかがっております。マーチャント商会の敵ということは、即ち私どもの味方ということで、何卒、御検討いただければと思うのです」

 その時、部下の一人がアイアンホースに駆け足で近寄り、耳元で何やらボソボソとつぶやいた。アイアンホースは分かったというように何度かうなずき、

「伯爵様、誠に申し訳ございませんが、私はこれからバイソン市に戻らなければならないのです。ご存知のことと思いますが、選挙が近づいておりまして、皇帝陛下の葬儀にも出席できないのですよ。正当理由として認められましてな。前向きに検討いただけるなら、いつでも御都合のよろしい時に、バイソン市の市庁舎までおいでになっていただければと……」

 アイアンホースは、直筆サイン入りの招待状をわたしに握らせると、最後に深々と頭を下げ、そそくさと去っていった。

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