日々平穏
「ふわぁ~~~~~」
わたしは執務室で椅子にもたれかかり、思わず、大あくび。
「やっぱり平和はいいね」
プチドラは、金貨が一杯詰まった袋にもぐりこみ、その肌触りを愉しんでいる。
帝国宰相からもらった「皇帝陛下署名入り認証状」のおかげで、騎士団の幹部から騎士の身分を剥奪し、その替わりにドーン、メアリー、マリアなど、猟犬隊や親衛隊の幹部を、(騎士団の幹部として)騎士に任命することができた。これで、一応、騎士団を牛耳ることができたと見てよいだろう。
マーチャント商会とも妥協が成立し、今のところ、表面上はうまくいっている。マーチャント商会の隊商もミーの町への出入りを始め、町はこれまでにない賑わいを見せている。輸出品や輸入品の値段は、わたしが思うところの適正価格。強欲で抜け目のないマーチャント商会会長のことだから、そのうち揉め事が起こることは目に見えてるけど、しばらくの間は波静かだろう。
今のところ特にしなければならないこともないので、椅子に腰掛けてまどろんでいると、
「ただいま戻りました」
アンジェラが執務室に顔を出した。
「おかえり、アンジェラ。もう学院にも慣れた?」
「はい、慣れました。皆さん、本当に、いい人ばかりです」
アンジェラはニッコリと微笑んだ。
帝国宰相には、「御落胤捜索は失敗」と報告しているけど、本当の御落胤はここにいる。そのうちに、場合によっては「帝位を正統に復するために」というお題目で、立ち上がってもらおう。でも、今はその時ではない。時機を間違えれば、真実としては本物でも「偽皇帝」にされてしまうだろう。
「宿題があるなら先に済ませて、友達と遊んでくればいいわ」
「そうします」
アンジェラはチョコンと頭を下げ、執務室を出た。
すると、アンジェラと入れ替わりに、例によってポット大臣が大慌てで執務室に駆け込んできた。
「騒動しいわね。どうしたの?
「カトリーナ様、大変なことが!」
だからこそ、慌てて駆け込んできたのだろう。大変な話でなければ懲罰ものだ。
「それで、大変って、何が?」
「皇帝陛下が、崩御されました!!」
「あ、そう。それで?」
「は?」
ポット大臣は、あんぐりと口を開けた。皇帝は、とっくの昔に死亡しているが、そういえば、ポット大臣は知らなかったっけ……