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R童話-やんわり-情景童話

一本の大木と夜空の大切な一つ星-

作者: RYUITI

暗く静まった深い夜空の下で、

冷たい風を受けながら。


男は懐かしい思い出のある大木へと、

身体を預けながら星を眺めていた。


シンとした世界の中で、

時折辺りを裂くようなビュウビュウと鳴り吹く風が、身を縮ませるような寒さを連れてきていても、

夜空の星は歪む事なく明るくきらめいている。



悩みや迷いなんて無いというように、

きらめき見える星を眺めていると、

身を刺すような寒さを忘れてしまうような気がした。




大木に身体を預けている男の眼の中は、

そんな夜空の星を確かに映していたハズなのに。


男の心の中はいつの間にか当然のように、

まるで星なんて最初から夜空にきらめいて居ないと言わんばかりに、

別の存在に埋め尽くされているようだった。


心と身体の中で常に思い、浮かぶ一人の存在。


そんな男の心を表すかのように、

着ているジャケットのポケットの中には、

小さな四角の箱が一つ。


男は時折、ポケットの中にある小さな四角の箱を、

外側からソッと確かめている。


その度に男は幾度と無くふーっと息を零したが、

浮かべた表情に有るのは後悔では無くて。


心の中に灯したままでは大きすぎる決断と葛藤。


本当に良いのだろうかと言う感情と、

ある一人の女性への気持ちが混ざりあったモノが渦巻き絡み合う。


夜風や外の寒さによって冷えていく身体に反して熱くなる思考の中で、

ふと……頭の中を廻り出す過去の景色。


産まれ故郷で腐りきっていた俺が、

ある日何の気なしに見た赤い鳥に惹かれ導かれるようにして故郷を飛び出し、鳥を追い続けた先にあった一本の大木。

そして其処で出逢った笑顔の綺麗な一人の女性。



もちろん女性と出逢ってからも、

もどかしくて苦しく辛いことは何度もあった。

命を絶ってしまいたくなることも、

枕を涙に濡らしたこともあった。


本当に数えきれない程に。


その度に俺自身の心の中を廻るのはやっぱり、

一本の大木の前で出逢った、

彼女の様々な表情だった。


良く話し、良く聞き、良く微笑む。

そんな彼女の存在に、

俺はいつも救われていたんだと気付いた。


自信がないこともわかっている。

不安もある。


それでも――俺は。


独り一つの決意を固め、

預けていた身体を大木から離して、

一歩、また一歩と大地を踏み締め歩き出す。


だんだんと離れていく大木を背に向け、

歩を進めていると、


じわりじわりと今までの想い出がさらに、

走馬灯のように込み上げてくる。


強い何かにはっとして思わず振り返ってしまう。


けれど其れは決めたことをまた迷って悩むためでも、

負の感情に浸るためでもない。


彼女と知り合うきっかけになった一本の大木に感謝と決意を表すためだ。



そうして俺は眼前に見えている大木に向かって、

「ありがとう」と短く口にした後。



行ってくるよと言わんばかりに、

力を込めて想いを込めて礼をした。





顔を上げて再度歩き出すために、

身体ごと前を向こうとした時、

後ろから唐突に、


「なにしてるの?風邪引いちゃうよ。」


なんて耳に馴染みのある声がして。


急激に跳ね上がった身体と動悸のまま振り返ると、

白いコートを着ていながらも、

其れでもなお寒さによって顔が赤くなっているであろう彼女が、

白い息を小さく零しながらいつもの穏やかな表情で立っていた。



「なんで――――。

いや、それよりもいつから其処に?」


俺は多分、いや確実に驚いた表情のままに、

眼の前の彼女に対してつい、そう零してしまった。


彼女は赤らんだ顔と穏やかな表情のまま、あっけらかんと「家に連絡しても反応無かったから、

もしかしてここに居るのかなと思ってちょっと来てみた」と言う。


――――ああ。


驚いていて気付くのが遅かったが、

彼女の唇と身体は。


零れる白い息と同じような間隔で、

小さく震えていて。


寒さのせいだけでは無いという事を把握した時には、

彼女が急いで俺を探しに来てくれていた事を理解した。


理解した後にやってくるのは、

申し訳なさと急激な愛おしさ。


「すまない!!

君の事をずっと考えていたというのに、

肝心な所で君に心配をかけてしまっていた。

こんなんじゃ君を大切にするどころか――――。」


何の前触れもなく、突然に視界が白くなる。



「大丈夫だよ。」


謝罪の言葉の後、続けざまに言おうとした言葉は、

ピタリと彼女の短い言葉と唐突な温かさによって遮られていた。


顔に伝わるしっとりした感触は、

少し厚めの布のもので。


そう自覚した時には、

彼女に抱き締められていることに気が付いた。


氷のように冷たくなっている手で、

俺の髪が優しく撫でられている。


俺の髪を撫でる指の冷たさを感じる度に、

無様で、不甲斐なくて、申し訳無くなってくる。


もどかしくなって頭を上げようとすると、



「大丈夫だよ、そんなに考え過ぎなくても。」



「君がすごくすごく心配性で

すごくすごく考え過ぎ屋なのは、

ちゃんとわかってるから。」


「だからね、あの、私と一緒に星を見よう?」


そう、彼女はいくつもの言葉を俺にかけてくれた。


最後にかけてくれた言葉なんて、

ちょっと顔を上げたら、

眼と眼があってしまったのが恥ずかしいくらいだ。


それから口にするまでもなく、

互いの足が自然と大木の方へ向かっていて。


いつの間にか彼女の手に繋がれている俺の手は、

熱を奪われるように冷たくなっていたけれど、

胸の奥と顔だけは燃えるように熱い気がした。



慣れたように大木に身体を預け空を観る彼女の隣で、

同じように身体を預けた。


薄く長く吹く風を浴びても寒さがわからない程に、

今、俺は緊張しているのかもしれない。


けれど。


恥ずかしさよりもまずは一言、

「ありがとう」と言おうと思って。


彼女の方に顔を向けると、


自身の口から出てきたのは唐突な、

「大好きだ、結婚しよう。」

という言葉で。

あ。


予想していたタイミングと違うことで、

自身で言っておきながら、

真っ白になっている俺に気付いていない彼女は。


寒さで少し赤くなった笑顔の表情のまま、

「ありがとう、よろしくお願いしますね」と言ってくれた。


その後……涙に潤む彼女を見て、


込み上げてくるものを、言葉を。

俺は抑えきれなかった。


「確かに辛いこともあった、

けれど君が言ってくれた言葉があったから!!、

君が一緒に居てくれたから今の俺がある!!

頼りなくて不甲斐ないと思うかもしれない。

けれど絶対に君を幸せにしたいっ

二回目になるかもしれないけど、

俺と結婚して家族になって下さい。」

そう半ば叫ぶように気持ちを吐き出して、

ポケットに入れておいた小さな箱を彼女に差し出した。


「うん……っ!!」



彼女は泣いて、笑っていた。



いつもの愛らしい彼女のままで。



俺はずっと忘れないだろうと思う。



その日見た一つの星のまばゆいきらめきを。


帰り道に手を繋いで話した未来の子どもの話を。


家の前に見覚えのある赤い羽根が落ちていた事を。


そして家に帰ってから俺がひどく風邪をひいた事を。


こんにちは、こんばんは。RYUITIです。

一本の大木と夜空の大切な一つ星-

を読んでいただきましてありがとうございます。

今回の後書きもちょっと長くなりそうな気もしますが宜しければ是非お付き合い下さい。


さて、2015年最後の日に出来上がりましたこの作品、

【一本の大木と夜空の大切な一つ星-】は久しぶりの人間男性視点、眼線の作品へと完成したのですが、

別の作品を書いている時に構想が浮かんだ五ヶ月前の時点では、性別も違えば人間でもありませんでした。


実を言うとタイトルが決まったのも投稿する二分前と言った感じでして。


投稿するギリギリまで色々と苦悩しましたが無事投稿出来ましたのでちょっと安心したのは秘密です。


今回の作品に出てくる男性は非常に考えしいで苦悩と不安を繰り返してしまったりかなりの心配性でありましたが、彼にわかることもあれば彼だからわからない事もある。人生ってそんなモノなのかなと思います。

考えても仕方がない事や、

迷っても結果の伴わないこともたくさんある中でも、

なにか一つ先に繋がる可能性を持っているという感じで。


彼が思っている、抱いているモノ以上に、

彼自身は他から見てきらめいているのかもしれないし熱いのかもしれない。それを自らに見せてくれる、映してくれるモノの存在って結構大きいんだろうなとおもっていたりします。


彼にとっての彼女のように。


さてさて、

今回も相変わらずな後書きとなってしまいましたが、

この辺で失礼したいと思います。

後書きまで読んで頂きましてありがとうございました!

RYUITI。




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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく感動しました。 私が読みたかったのは、こういう作品だったんだ、ってことが見つかりました。 [一言] 情景童話、幻想童話、とても好きです。
2015/12/31 22:06 退会済み
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