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§ ヒラタケ


 だいぶ間が開いた。

 別にサボっていたわけではない。正直言って、本当は遅筆でもないつもりだ。

 だいたい、エッセイの一話を書き上げるのに推敲も入れて二時間くらいってところか。

 だが、あんまし似たようなネタばかり書きたくないのと、息子がとうとう高校受験って歳になってしまったことで、執筆もおぼつかなくなったのだ。

 その後、めでたく高校に受かったはいいが、今度は入学祝いのスマホとパソコンを駆使して、遊びまくる。それを妻がいちいち取り締まるものだから、ずっと家の中の空気が悪かったのである。

 ほんの十分でもスマホをいじっていると、横から長すぎるだのヤメロだのしつこく言い続けるのだから、そりゃあ隠れて使うようにもなる。

 息子も息子で、フィルタリングなんぞクラッキングで楽々突破。赤外線の範囲を見切って自宅の警備保障を解除して、LANをつなぎに居間へ行こうとするし、そのまま徹夜しているところを現行犯てのも一回や二回じゃない。

 電話会社のポイントやプリペイドカードを使って、新たに機材まで買う。また高校では放送部に在籍し、その情熱を動画作りにぶつけたもんだから、成績は急降下。

 進級もおぼつかない状況となった上に、三年の後期で数学にギブアップ宣言して文系志望に鞍替えという、無軌道ぶりである。


 で、まあ、ようやくというか取りあえずというか、息子はなんとか滑り止めの私大に合格し、浪人からのニート、という最悪の事態は避けられたようで、家の空気が少し良くなった。

 本命はまだこれからなのだが、そこはもう本人が頑張らないなら仕方ないわけで、この期に及んで勉強しろとか言うつもりもない。


 ぼちぼちと執筆ペースを戻していこうかと考えているのだが、とりあえずいくつかを、作品として完結させる必要があるな、と思っていた。

 その中の一つが、この『きゃっち☆あんど☆いーと』なのだが、上記のような状況なので、当然、野外に出る機会も減っていて、新たに『きゃっち』することも『いーと』することも少なかった。つまりネタが無かったので、書けなかったのである。

 ただ、この間にチャレンジはしていた。

 例のトチの実だが、読者の方からアドバイスをいただき、重曹よりアルカリ度の高いナラの木の木灰を一年かけて自分で作成。

 伝統法に倣って、天日に干し、流水に浸け、木灰を混ぜ、万全の手順であく抜きを行った。そして前回はモチで失敗したので、今度はパンに適量混ぜ込み、焼いてみたのである。

 そして……結論から言えば、やはり不味かった。

 アクの状態が、前回とさほど変わらなかったのである。

 一切手を抜かない作業してこうなるなら、もう独学でのアク抜きは無理ではないか、と匙を投げた俺は、今年拾ったトチの実は、すべて植えた。

 もちろん、自宅だと大変なことになるし、その辺の林や草むらに生やすと、外来種テロになってしまう。在来のトチノキであっても、遺伝子撹乱になってしまうのだが、そもそのこのトチの木、よく調べてみるとベニバナトチノキなのだ。

 ベニバナトチノキというのは、その名の通り赤い花が咲く。これはアメリカ産のトチと、ヨーロッパ産のマロニエの交雑種であるらしく、立派な外来種……って、ん? もしかするとアクがうまく抜けなかったのって、その辺にも原因が……?

 まあ、その辺は置いといて、俺が植えたのは街路樹の無くなっている場所に、である。

 街路樹はすべてきちんと植わっているわけではなく、歯抜けになっている場所があるのだ。これは環境が悪かった……だけではなく、明らかにそこの住人がわざと枯らした、と思われるような場所も多い。

 駐車場の出入口近くや店舗の周りなど、どう見ても不自然にそこだけ抜けているのだ。まだ生えている場所も、枝が妙にばっさり切られていたりして、虐められているのが分かる。だが、そんな場所でも植えてあった升だけは残っていて、草が生え放題になっているのである。

 そういう所を選んで、一個ずつ植えさせてもらった。

 草すら生やさないように管理している所は、すぐに抜かれてしまうであろうから植えない。だが、草が生え放題のところは、少なくとも数ヶ月は放置されるはず。

 トチの成長は早い。気づいた時には、もうそこそこの木になっているだろう。それでも、大半は抜かれてしまうだろうが、なあに、一本でも生き残ればそれでいい。来年も実は拾えるわけだしな。


 それはそうと、首題のヒラタケである。

 これは、今年の暖冬のおかげなのだが、雪が全く降らない状況だと、それこそ街路樹や庭木の根元や切り株から、低温性のキノコが生えてきているのだ。

 ヒラタケはもともと、晩秋によく採れるキノコなのだが、今年は真冬になってもよく生えているのだ。

 冬のキノコの良い点は、虫食いが無いことである。

 冬は殆どの虫や食害の犯人であるナメクジは冬眠状態なので、キノコは長いこと綺麗なままなのだ。多少タイミングが遅くても綺麗だということは、キノコが充分に育つまで放っておけるわけで、量も質も良いモノが採れる。

 そういうわけで、いくつかヒラタケを採ったのだが、うち一つ、最も立派なヒラタケの株は、前述のベニバナトチノキの根元から生えていたのである。

 そのこと自体は別に良いのだが、その根元……とは、ウチの犬がしょっちゅう尿をしている場所であるのが、問題なのだ。

 その木は生きてはいるが弱っている。ヒラタケは白色腐朽菌だから、生きた木を腐らせたりはしないのだ。おそらくだが、頻繁な尿のせいで根元の一部が枯れ、そこに菌糸が発達したのであろう。

 気分の問題、といえばそれまでだし、これまで色んなモン食ってきて何言ってる、と言われそうだが、なんとなく食べづらくて、まだ料理に取りかかれないでいるのである。


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