第4話 天導虫
「いかん! ダメだ!
こんな結末は認めんぞ!」
メフィストは血相を変えて指を振り、
僕の体についたアブラムシの大半を叩き潰した。
レベルアップ!
経験値:3 / 64
再生の苗 Lv 2
HP 150 / 150 MP 28 / 28
腕力:3
魔力:7
敏捷:0
防御:3
幸運:3
【新規スキルを選択してください】
【誘引香 / 刺激臭 / 成長加速】
「もし新しいスキルが見えているなら、
『誘引香』を選びたまえ。」
メフィストが、
ぐったりとした様子でサングラスを外した。
「……なぜだ?」
「アブラムシはまた来る。
天敵を呼ぶ香りを放てば、もう脅かされることはない。」
彼の声は平坦だが、
手元にあるサングラスがミシミシと音を立てて砕けた。
「……さっきまで、
僕は死を期待していたんだぞ。」
「フフフ、ハハハハ!」
悪魔は再び、醜悪に、そして愉しげに笑った。
「だが分かっているはずだ。
九死に一生を得た今、
君の中に求生の本能が再燃したことを
ね。」
見透かされていた。
僕の意識は、昇りゆく太陽、吹き抜ける風、たゆたう雲へと向かう。
世界には、まだ体験すべき素晴らしいことが溢れている。
……死への意志は、
もう先ほどほど強固ではなかった。
【スキル選択:誘引香】
僕の体が光に包まれる。
ステータス欄を確認した。
再生の苗 Lv 2
【習得済みスキル:誘引香 Lv 1/8】
そのスキルを注視し、詳細を読み取る。
『誘引香 Lv 1:昆虫を誘き寄せる。
レベルアップで鳥類も可能。』
「どうやって使うんだ?」
「スキルの名を念じるだけでいい。」
「分かった。……『誘引香』!」
【誘引したい生物を選択してください:……】
リストには膨大な数の生物名が並んでいた。
「ついでに教えておこう。そのアブラムシの天敵は『天導虫』という。
何匹か呼んでみるといい。」
メフィストは僕の疑問を見越していた。
もし彼が僕らの社会にいたら、
有能な教師にでもなっていただろう。
僕はリストからその名を探し出した。
「『天導虫』を誘引!」
MP 25 / 28
スキルが発動し、葉の縁から清涼感のある液体が分泌されるのを感じた。
それはすぐに揮発し、
空気中へと広がっていく。
数分後、
森の奥から一匹の小さな昆虫が飛んできた。
碧緑の体、短い触角。
金属光沢を放つ頑丈そうな緑の鞘翅。
天導虫 Lv 3
HP 30 / 35 MP 2 / 2
『天導虫。
ケプラー452bの原生物。
完全変態を行い、
アブラムシを主食とする。』
それは僕の葉に止まると、
触角を忙しなく動かして獲物を探した。
そしてアブラムシを一匹捕らえると、
鋭い口器でムシャムシャと平らげ始めた。
再生の苗 Lv 2
経験値:14 / 64
「何かに気づいたかな?」
メフィストが鋭い眼差しを向ける。
「アブラムシを全滅させるべきじゃない、
ということか?」
「その通り。
一、二匹は残しておきたまえ。
彼らは君に、
銀行の利子や株の配当のように、
絶え間なく経験値を
運んでくれるのだからね。」
僕は誘引香を止めた。
【重要イベント達成:
一次消費者と二次消費者の均衡】
イベント経験値 +10
経験値:24 / 64
「少しは進歩したようじゃないか。」
メフィストが屈み込んで僕を見る。
その悪夢のような容貌には、
どうしても慣れそうにない。
「おや……木になったというのに、
まだそんな外見を気にするのかい?」
そう言うと、彼は自分の顔をなぞった。
現れたのは、彫りの深い美しい顔立ち、
銀色の瞳と長い髪、そして長く尖った耳。
「それは……エルフか?」
「この辺りに住んでいる先住民だよ。
君の理解ではエルフということでいい。」
「興味深いな。
類人生命体がいるなら、ここに転生したのも悪くない境遇かもしれない。」
「彼らに会えるのはまだ先の話だ。
まずは立派に育つことだね。」
そう言い残すと、
悪魔は振り返ることもなく歩き去った。
消えるのではなく、ただ歩いて……
彼は一体、どこへ向かうのだろうか。
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