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メフィストの種―悪魔に別の星へ植えられた僕、拠点を守護する聖樹に転生し、 遥か彼方のこの星を開拓していく。  作者: 上部乱


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第13話 引く水


人間、エルフ、そして幼い鹿。

僕たち三人は高台の縁で、ただ激流が過ぎ去るのを眺めていた。


足元の土壌は決して盤石ではない。

水流に削られ、少しずつ崩落を始めている。僕たちは移動を続けなければならなかった。


チミダリはすべてを呑み込んだ濁流を悲痛な眼差しで見つめ、アガサがその後ろから彼を抱きしめた。


「あのドワーフが呑み込まれたのは、

 私にも責任があるわ。

 ……あなたは、

 私を救うことを選ぶに決まっているもの」


違う! 騙されちゃいけない。

あの悪魔はわざとやったんだ。


僕はエルフの女性の傍へ寄り、

何度も頭で彼女を押し促した。

これ以上自責の念に囚われていたら、

犠牲者は一人では済まなくなる。


チミダリが僕を見た。


「この小鹿に従おう。

言葉は話せなくとも、僕たちがまだ危険の中にいることに気づいているのは、この子だけのようだから」


アガサは苦境の中、

どこか救われたような笑みを浮かべた。


自分の愛した男が、

悲しみを一旦横に置いて前へ進もうとしていることに、彼女は安堵したのだ。


僕は天導虫を呼び起こし、

適切な足場を探させた。


虫の視界を上に飛ばすと、すぐに地勢が高く平坦な場所を見つけることができた。


小鹿に二人を導かせ、

新しい拠点へと向かわせる。


その間も天導虫は偵察を続けた。

ふと、自分の体から伸びる「魂の糸」が、遥か大水の深淵へと続いているのに気づいた。


あそこが、

僕の苗木の本体がある場所に違いない。


水が引いたら、

何とかして自分を掘り出さなければ。


氾濫したエリアは広大で、

どこもかしこも灰黒色の泥流に覆われていた。


僕は村のあった方向へと飛び、

様子を観察した。


生存者がいないわけではない。

だが、不安が募る。


たとえこの大水を凌いでも、

その先にはさらなる苦難が待ち受けている。

彼らは本当に、生き残れるのだろうか?


農地も、漁場も、家畜小屋も、工房も……

すべてが消えた。


洪水がもたらしたヘドロ、

湧き出す蚊や蝿、そして疫病。


点在する生存者たちは、

一体誰に頼ればいいというのか。


僕は重い足取りで戻った。

チミダリは絶望した様子で、

背嚢の中の乾パンを漁っていた。

 

泥水に浸かった食料は、

腐敗したような酸っぱい臭いを放ち、

およそ喉を通る代物には見えなかった。


アガサは落ち葉や枯れ枝を集め、

呪文を唱えて魔法を発動させたが、

降り続く雨に濡れた枝葉は、

火を熾すことを拒んでいた。


僕は二人にそっと頭を擦り寄せ、

寄り添うように促した。

三つの温かい体が重なり合い、

無慈悲な寒風に抗う。


夜は長く、そして冷たかった。

荒れ狂っていた水音はやがて疲弊したように静まり、


朝日が昇る頃には、

悪水は陸に打ち上げられたフナのように、

異臭を放ちながらもその力を失っていた。


朝の光は僕たちを温めてくれたが、

一晩中雨に打たれた彼らは体力を消耗し、

病の影さえ見え隠れしていた。


何より深刻なのは、

食事を摂っていないことだ。


チミダリに狩りをする体力が残っているかは分からないが、この環境では獲物を見つけることすら不可能だろう。

彼らを生かす方法は一つしかなかった。


僕は再び、二人の衣服を力一杯引っ張った。

どうしても僕についてこさせなければならない。


「この子について行きましょう。

一度私たちを救ってくれたのだから、

二度目だって助けてくれるかもしれないわ」

アガサは優しく僕の頭を撫でた。


僕は振り返り、

魂の糸を辿って苗木のあった場所へと進む。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この物語を気に入っていただけましたら、

ぜひたくさんおすすめしてください。

そして、少しでも励ましの言葉をいただけたら嬉しいです。

この物語を書き続ける価値があるのだと、

実感させてください。

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