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メフィストの種―悪魔に別の星へ植えられた僕、拠点を守護する聖樹に転生し、 遥か彼方のこの星を開拓していく。  作者: 上部乱


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第12話 山津波


意識を苗木の方へと戻す。


メフィストの表情を見た瞬間、

すべてが手遅れであることを悟った。


チミダリが悔しげにメフィストに告げる。


「間違いだったのは、このことを私の口から伝えようとしたことだ。

森のエルフたちは人間を憎んでいる。

彼らはこれを、自分たちを追い出すための嘘だと思い込んでいるんだ。」


エルフの女性が苦しげに顔を覆った。


「私たちは、

人間は愚かで利己的だと思い込んできた。

でも、彼らはあなたが『特別』だということを知らないの。」


「アガサ、それは私が特別だからじゃない。

君たちが私を知っているからだ。

もし他の人間を知る機会があれば……」


メフィストが、

得意げな標準日本語で僕に言った。


「彼らは天真爛漫すぎるね。

 悪魔がそんな『相互理解』の機会を与えるはずがないというのに。


 憎しみを植え付けるのは、

 君を育てるより簡単だよ。

 村長の一人や二人を煽れば済むことだ。」


「……村人を救う方法が、

 必ずあるはずだ!」

僕は三つの心すべてで激しい怒りを感じた。


「はっ――目の前の二人を救えるかどうかも怪しいというのに。」

「何だって?」


「聞け!」

メフィストが全員に聞こえる言語で叫んだ。


天候はさらに悪化し、

森全体に地鳴りのような轟音が響き渡った。


「まるで神奈川沖で浪の音を聞いている気分じゃないか?」

メフィストは今度は標準日本語に切り替えた。


天導虫が再び高く舞い上がる。

森が動いているのが見えた。


水だけではない、

大地そのものが奔流となっている。


泥と水がすでに山の半分をなぎ倒し、

エルフの村が……。


遠くの方で、大人が必死に子供を屋根の上に押し上げる姿が見えた。


樹の幹にしがみついた者は、

樹ごと流されていく。


洪水に逆らって走った者は、

捕食者に組み伏せられる獲物のように、

濁流と土砂に呑み込まれていった。


……あの村を救うことは、僕にはできない。


僕は視線を巡らせ、

少しでも安全な方向を探した。


細い鹿の脚に力を込める。

熊の乳を飲んだおかげで、

だいぶ体力がついていた。


僕は軽やかにアガサの傍へ跳ぶと、

彼女の衣の裾を優しく噛んで引っ張った。

エルフの女性はすぐに僕の意図を察した。


僕は森の間を縦横無尽に駆け抜け、

アガサとチミダリが必死に後を追う。


あのノーザンサーチベアも異変を察知していた。

だが、彼女は僕たちとは別の、

密林のさらに深い方向へと咆哮を上げながら走り去っていった。


僕はその背中を見送り、

彼女を導くべきか一瞬迷った。


「放っておいてやれ。

 君も考えてみるんだ。

 なぜあの熊に、

 君を育てるだけの乳があったのかをね。」

 

ドワーフの姿のまま、

メフィストが息を切らして走っている。


……考えもしなかった。

あの熊にも、自分の子供がいたはずなのだ。


彼女たちが無事でありますように。

……でも、

もし子供たちが生きているのなら、

なぜさっき、彼女が食事をし、

眠っていた時に姿を見せなかった?


僕たちは死に物狂いで逃げた。

山の斜面を泥の浪が襲いかかってくる。


苗木の本体である僕には、逃げる術はない。

山津波が到達した時、

足元の水位がじわじわと上がり、

河底の泥が積み重なっていくのを感じた。


やがて、視界は完全な闇に包まれた。


【イベント強制発動:

 新スキル『休眠きゅうみん』】

まさに、最高のタイミングだ。


苗木側の主意識を完全にシャットダウンし、

ハイランドスピアホーンの背に止まった天導虫もまた、休眠状態に入る。


視界の中に二つのクールダウンアイコンが表示された。

一つは「再生の苗」、

もう一つは「天導虫」だ。


そのアイコンを気に留める余裕はなかった。

今の僕は、一心不乱に逃げ惑う一頭の獣だった。


ハイランドスピアホーンの敏捷性は並外れている。

産まれたばかりの幼鹿であっても、

その走りは大地を駆ける風のようだった。


アガサとチミダリは命を削るように走っていたが、背後から迫る洪水の速度は、想像を遥かに超えていた。


間一髪のところで、

僕は高台の縁へと飛び乗った。


エルフと人間は半ば水に浸かりながら、

高台の岩を必死に掴んでいる。


僕――一頭の弱々しい小鹿は、

人間の上着を噛んで引き上げた。

少しでも彼が水から離れられるように。


男は這い上がると、

即座に振り返ってエルフの女性を引き寄せた。


「ゴホッ、ブハッ!」

マーフィーが泥流に呑まれ、

混濁した水の中に沈んでいく。


アガサは僕の隣で、

力なく横たわり大きく肩で息をしていた。


「マーフィー!」

チミダリが自責の念に駆られたように、

岸辺で膝をついた。


……分からない。


あの悪魔が、

たかが山津波ごときを恐れるはずがない。


彼は今、

一体どんな芝居を演じているんだ?




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


この物語を気に入っていただけましたら、

ぜひたくさんおすすめしてください。

そして、少しでも励ましの言葉をいただけたら嬉しいです。

この物語を書き続ける価値があるのだと、

実感させてください。

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