71話 兄、初めての取締役会議
会議室は、少し広すぎた。
長いテーブル。
並ぶ資料。
経営陣の顔ぶれ。
その端に、
兄は座っていた。
肩書きは――
「社外取締役」。
名刺は、まだ新しい。
事前に共有された条件
取締役会が始まる前に、
社長は一言、確認する。
「本件について、改めて共有します」
「主要株主からの要望は、
すでに文書で受け取っています」
その内容は、
簡潔だった。
・主要株主本人は、経営に直接関与しない
・知人が社外取締役として就任
・一定の裁量は与える
・ただし、基本方針は現経営陣に一任
誰かが、
思わず口を開く。
「……つまり」
「監視役、という理解で?」
社長は、
少し考えてから答えた。
「いいえ」
「安全装置です」
視線が集まる
自然と、
兄に視線が集まる。
年齢。
経歴。
派手さはない。
だが、
落ち着きがある。
兄は、
ゆっくりと口を開いた。
「まず、確認させてください」
「私は、
この会社を変えに来たわけではありません」
静かな声だった。
兄のスタンス
「私の役割は、
三つだけです」
指を折る。
「一つ。
議論が偏ったとき、
別の視点を出すこと」
「二つ。
現場の声が、
数字に潰されないようにすること」
「三つ。
何かがおかしくなった時、
最初に止めること」
部屋が、静まる。
経営陣の反応
誰も、反論しない。
それどころか――
安心した空気が、広がる。
改革派でもない。
支配者でもない。
だが、
無関心でもない。
「……分かりました」
専務が、頷く。
「では、
今期の議題に入りましょう」
ジャックの不在が効く
この場に、
ジャックはいない。
それが、
逆に効いていた。
圧がない。
威圧がない。
「株主に見られている」
ではなく、
「話を聞いてくれる人がいる」。
その違いは、大きい。
兄の内心
議題が進む中、
兄は思う。
(……弟は、
ちゃんと分かってる)
力を使わない。
前に出ない。
席だけを用意する。
それで十分だと。
会議の終わり
取締役会が終わり、
資料を閉じる音が重なる。
社長が、兄に言う。
「今日は、ありがとうございました」
「いえ」
「こちらこそ」
短いやり取り。
だが、
確かな信頼が生まれた瞬間だった。
余韻
その夜、
兄はジャックにメッセージを送る。
「初回、無事終了」
「思ったより、ちゃんとした会社だ」
ジャックは、
それを見て、微笑った。
(これでいい)
(これが、
俺のやり方だ)
後書きという名のお願い、続きが読みたい、面白かったという方は下の★マークをタップ、ブックマークもお願いします。 今後の創作意欲が向上します。




