70話 兄に社外取締役を打診する
夜。
兄の部屋は、相変わらず整っていた。
派手な家具はない。
必要なものだけが、必要な場所にある。
ジャックは、
ソファに腰を下ろし、少しだけ間を置く。
「……相談がある」
兄は、
それだけで察したように、視線を向けた。
「重い話か?」
「多分」
冗談めかして言ったが、
声は真剣だった。
事実だけを置く
ジャックは、
順番を間違えなかった。
「ある会社の株を、
それなりの割合で持ってる」
兄は眉をひそめる。
「“それなり”って、どれくらいだ」
「経営に口を出せるかどうか、
その境目」
兄は、黙った。
驚きはある。
だが、否定はない。
「買収じゃない」
ジャックは続ける。
「経営陣は、今のままでいいと思ってる」
「俺は前に出ない」
兄の役割
「だから、頼みたい」
兄の目を見る。
「社外取締役を、やってほしい」
一瞬、
部屋の空気が変わる。
「俺が?」
「うん」
理由を、並べない。
ジャックは、
一番大事なことだけ言った。
「兄貴は、
現場を知ってる」
「金に酔わない」
「俺より、
人の言葉を信じられる」
逃げ道を残す
すぐに、
ジャックは言葉を足す。
「断っていい」
「名前を貸すだけでもいい」
「無理なら、
それで終わりにする」
兄弟だからこそ、
強制はしない。
兄の沈黙
兄は、
しばらく黙っていた。
窓の外を見る。
「……正直に言う」
「怖い」
その一言に、
ジャックは頷く。
「でもな」
兄は続けた。
「お前が、
“全部一人で背負う気じゃない”
ってのは、分かった」
「それが、
一番信用できる」
条件
「一つだけ条件がある」
兄は言う。
「経営に口は出すが、
現場は尊重する」
「派手な改革はしない」
「何かあったら、
真っ先にお前に言う」
ジャックは、即答した。
「それでいい」
「……それがいい」
決まった瞬間
兄は、
小さく息を吐いた。
「分かった」
「社外取締役、
引き受ける」
ジャックは、
深く頭を下げた。
「ありがとう」
兄は、苦笑する。
「やめろ」
「兄弟だろ」
「住む所もこちらで用意するよ」
余韻
その夜。
ジャックは、
一人になってから思う。
(これで、
俺一人じゃない)
権力でも、金でもない。
信頼を、
一つ、正式な形にしただけだ。
だがそれは、
どんな契約書よりも重い。
後書きという名のお願い、続きが読みたい、面白かったという方は下の★マークをタップ、ブックマークもお願いします。 今後の創作意欲が向上します。




