66話 名前も、アイコンも、そのまま
新しいアカウントを作る。
必要事項を入力していく中で、
最後に残ったのは――名前と、アイコンだった。
ジャックは少し考えて、
どちらも変更しなかった。
理由は単純だ。
それが一番、面倒がない。
そして一番、誠実だ。
過去を切り捨てたわけじゃない。
でも、しがみつくつもりもない。
「これは俺だ」
それだけ。
新アカウントは、まっさらだ。
フォロワーも、履歴も、何もない。
でも名前とアイコンだけが、
かつての配信者と同じ顔をしている。
奇妙な既視感。
知らない場所に、知っている看板だけが立っているような感覚。
引き継ぎ配信
告知は最低限。
「アカウント変わりました」
「名前とアイコンは同じです」
「配信は続けます」
理由は語らない。
聞かれても、こう答えるだけだ。
「ちょっと環境変わっただけです」
それで十分だった。
初枠の空気
新アカ初配信。
同接は、ゼロから始まる。
数分後、一人入ってきて、すぐ抜ける。
また一人。
「……こんばんは」
声は落ち着いている。
半年ぶりでも、間は狂っていない。
コメントが一つ。
「名前一緒だけど、本人?」
ジャックは即答しない。
一拍置いて、こう言う。
「そう思うなら、そうでいいですよ」
否定もしない。
肯定もしない。
でも――
話し方。
間の取り方。
息継ぎの位置。
癖は、隠れない。
気づく人は、気づく
「やっぱ本人じゃね?」
「声、同じじゃん」
「戻ってきたんだ……」
確信はない。
証拠もない。
それでも、少しずつ人が増える。
そして、
その枠に――
◯◯◯さんが、何も言わずに入ってくる。
ギフトは投げない。
コメントもしない。
ただ、
最初から最後まで、そこにいる。
ジャックは気づいている。
でも、触れない。
ジャックの独白
名前も、アイコンも、変えなかった。
それは“なりすまし”じゃない。
“継承”でもない。
続きだ。
前世の自分が途中で手放した糸を、
今の自分が、黙って拾っただけ。
だから、今日も話す。
誰が信じても、信じなくても。
配信を切るとき、
ジャックは小さく呟いた。
「……やっと、戻ってきたな」
でもそれは、
過去に戻ったという意味じゃない。
前に進むための、現在地だった
後書きという名のお願い 面白い、こんな展開もありと思った方は 下の★マークをタップ 感想やご意見お待ちしてます




